年間9,000円の負担増は大きい? ― 生活者の視点で考える高齢者医療費改革

FP

75歳以上の医療費「2割負担」が2025年10月から完全施行されました。これにより、全国で約310万人が対象となり、平均して年間9,000円程度の負担増が見込まれています。

制度改正と聞くと「数字」や「制度の仕組み」が注目されがちですが、実際に暮らしにどう響くのかは人それぞれ。今回は生活者目線で「家計にどの程度の影響があるのか」「どう備えればよいのか」を考えてみます。


年間9,000円の負担増はどんな感覚?

厚労省の試算では、対象となる方の負担増は平均で年間9,000円程度。ただしこれは「平均値」であり、受診頻度や治療内容によって大きく差が出ます。

  • 月1回受診の人:年数千円程度の増加にとどまる
  • 月に複数科を受診する人:年数万円規模の増加になることも

たとえば、糖尿病や高血圧などの慢性疾患で、内科と眼科を定期的に受診しているケースでは、薬代を含めて負担が確実に増えると考えられます。


家計に置き換えてみる

「年間9,000円」という数字を、日常の出費に置き換えてみましょう。

  • 外食なら … ファミリーレストランでの食事を4~5回分
  • 趣味なら … カラオケや映画館に数回行ける金額
  • 食費なら … 月にお米1袋(5kg)+野菜や果物を買える程度

こうして考えると「ちょっとした楽しみを控えれば捻出できる」とも言えますが、年金暮らしの方にとっては負担感が重くのしかかる場合もあります。特に、夫婦そろって対象になる世帯では年間2万円近い負担増になることもあります。


高額療養費制度というセーフティネット

一方で、日本の医療制度には「高額療養費制度」があり、一定額を超えた分は払い戻されます。たとえば入院や手術などで医療費がかさんだ場合でも、自己負担が青天井で増えることはありません。

つまり、今回の改正で負担増を実感するのは外来受診が多い方が中心であり、「重い病気になったら払えないのでは」という不安はある程度解消されているのです。


負担感を和らげる工夫

制度の改正そのものは個人では避けられませんが、日常の工夫で負担感を減らすことはできます。

① ジェネリック医薬品を活用する

同じ効果の薬で、先発医薬品より2~5割安いこともあります。医師や薬剤師に相談すれば切り替え可能です。

② かかりつけ医を活用する

複数の医療機関に通っている場合、重複した検査や処方を減らせる可能性があります。

③ 市販薬をうまく取り入れる

風邪薬や湿布など、軽度の症状は市販薬で対応するのも選択肢。今後は「OTC類似薬の保険外し」も検討されているため、慣れておくことが制度対応にもつながります。

④ 健康維持に投資する

日常の運動習慣やバランスの良い食生活は、長期的には医療費の抑制につながります。「医療費を払わない努力」もまた立派な備えです。


世代間の公平性を考える

今回の改正は「高齢者いじめ」ではなく、制度を持続可能にするための調整です。現役世代は給与からの保険料天引きが年々重くなり、子育てや住宅ローンとの両立に苦しんでいます。

高齢者が「自分も支払い能力に応じて応分の負担をする」と受け止めることは、制度の信頼を守るために不可欠です。


まとめ

  • 年間9,000円の負担増は「外食を数回控える程度」かもしれませんが、慢性疾患で受診が多い方は年間数万円規模になる可能性がある。
  • 高額療養費制度があるため、大病で自己負担が急増するリスクは抑えられている。
  • 日常の工夫(ジェネリック薬、かかりつけ医、市販薬活用、健康維持)で負担感を和らげられる。
  • 今回の改正は「世代間の公平性」を守るための第一歩であり、自分や子ども世代の将来のために必要な負担と捉えることが大切。

📖 参考

  • 日本経済新聞「医療保険の負担の改革をさらに進めよ」(2025年9月29日)
  • 厚生労働省「高額療養費制度の概要」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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