衆院選の公約をきっかけに、公的年金の積立金を消費税減税などの財源として活用できないか、という議論が再び注目を集めています。
一見すると、巨額の年金積立金やその運用益を使えば、減税や社会保険料の軽減が可能に見えるかもしれません。しかし、この考え方には年金制度の仕組みを踏まえると看過できない問題があります。
本記事では、年金積立金の役割と、減税財源として活用することがなぜ困難なのかを整理します。
公的年金積立金とは何か
日本の公的年金制度は、現役世代が高齢者世代を支える「賦課方式」が基本です。
一方で、将来の人口減少や保険料負担の急増に備えるため、保険料収入と給付支出の差額などを原資として積立金を保有しています。
この積立金は、年金給付を将来にわたって安定させるための「調整弁」として位置づけられています。
現在の積立金残高は、厚生年金と国民年金を合わせて数百兆円規模に達していますが、その大部分は将来の給付原資としてすでに計算に組み込まれています。
「運用益を使えばよい」という誤解
減税財源としてよく挙げられるのが「積立金そのものではなく、運用益だけを使えばよい」という考え方です。
しかし、この点にも大きな誤解があります。
年金積立金の運用益は、余剰資金ではありません。
将来の年金給付水準を維持するため、長期の財政見通しの中ですでに前提として織り込まれている収益です。
仮に運用益を別の用途に回せば、その分だけ将来の給付水準が下がるか、現役世代の負担が増えることになります。
財政検証が示す前提条件
厚生労働省は5年ごとに公的年金の財政検証を行い、おおむね100年後までの見通しを示しています。
直近の検証では、積立金とその運用収益はすべて将来の給付原資として計算済みです。
すでに、少子高齢化の影響により、将来の年金給付水準は現役世代の所得に対して低下する見通しが示されています。
この前提の上で積立金や運用益を流用すれば、給付水準の低下がさらに進むことになります。
法制度上の制約
制度面でも、年金積立金の流用には高いハードルがあります。
公的年金に関する法律では、積立金は「専ら被保険者の利益のために」運用すると定められています。
減税や一般財源への活用を行うには、法改正が不可欠です。
制度の根幹に関わるため、単なる政策判断では済まされない問題といえます。
政府系ファンド構想との違い
海外では、政府系ファンドが財政運営に活用される例があります。
ただし、その多くは石油・天然ガスなどの資源収入や、恒常的な貿易黒字を原資としています。
日本の年金積立金は、あくまで保険料を原資とする社会保障資産です。
性格の異なる資金を同列に扱うことには慎重であるべきでしょう。
結論
年金積立金やその運用益を減税財源として活用する案は、制度の仕組みを踏まえると実現のハードルが極めて高いといえます。
仮に実行すれば、将来世代の年金給付水準の低下という形で、その負担が跳ね返ってくる可能性があります。
減税や負担軽減を議論するのであれば、その財源と影響を長期的視点で検証することが欠かせません。
「余っているお金がある」という印象だけで判断するのではなく、年金制度全体の持続可能性を冷静に見極める必要があります。
参考
・日本経済新聞
「CheckPoint『年金積立金使い減税』は困難 ― 運用益、原資に織り込み済み」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
