2026年から2028年にかけて、年金制度では複数の重要な見直しが予定されています。なかでも見落とされがちですが影響が大きいのが、老齢厚生年金に上乗せされる加給年金の改正です。
配偶者向けの加給年金は減額される一方、子に対する加給年金は拡充されます。この変更は、単なる給付額の問題にとどまらず、年金の繰り下げ受給の判断にも直結します。
本稿では、加給年金の改正内容と、繰り下げ受給との関係について整理します。
配偶者向け加給年金はなぜ減るのか
加給年金は、厚生年金に20年以上加入した人が65歳になった時点で、一定の条件を満たす配偶者や子がいる場合に老齢厚生年金に上乗せされる仕組みです。
このうち配偶者向けの加給年金は、25年度時点で年41万5,900円ですが、28年4月からは年36万7,200円程度へと約1割減額される見通しです。
背景には、共働き世帯の増加があります。配偶者自身が厚生年金を受給するケースが増え、制度創設時に想定された世帯像と乖離が生じているためです。いわば「年金版家族手当」の性格が薄れつつあるといえます。
子に対する加給年金は拡充される
一方で、18歳年度末までの子を対象とする加給年金は拡充されます。
25年度は、第2子までが年23万9,300円、第3子以降は年7万9,800円と差がありましたが、28年4月以降は子の人数にかかわらず、1人あたり年28万1,700円程度に一本化される予定です。
これは明確に子育て支援を意識した改正であり、子の年齢によっては、配偶者分の減額を上回る恩恵を受ける世帯もあります。
繰り下げ受給と加給年金の関係に注意
加給年金で特に注意したいのが、年金の繰り下げ受給との関係です。
老齢年金は65歳からの受給開始が原則ですが、1か月繰り下げるごとに0.7%増額され、70歳まで繰り下げると42%増額されます。
ただし、加給年金は老齢厚生年金に付随する制度のため、厚生年金を繰り下げると加給年金は受給できません。このため、実務では基礎年金のみを繰り下げ、厚生年金は65歳から受給して加給年金を確保する方法が選択されることがあります。
しかし、どちらが有利かは、夫婦の年齢差や想定寿命によって変わります。
年齢差が小さく、長生きを想定する場合は、加給年金を諦めてでも厚生年金を繰り下げた方が、生涯の総受給額が多くなるケースもあります。今回の減額により、その差はさらに縮まることになります。
遺族年金と繰り下げの新ルール
28年4月からは、繰り下げ受給を巡るもう一つの重要な改正も実施されます。
これまで、遺族厚生年金の受給権が発生すると、自分自身の老齢年金は繰り下げできませんでした。たとえ実際の遺族厚生年金額がゼロであっても、受給権があるだけで制限を受けていたのです。
改正後は、遺族厚生年金を請求していなければ、老齢厚生年金の繰り下げが可能になります。また、老齢基礎年金については、遺族厚生年金を請求していても繰り下げが認められます。
対象は、1963年4月2日以降生まれで、28年4月以降に65歳になる人です。
結論
今回の加給年金の見直しは、単なる給付額の増減ではなく、年金制度全体の設計思想が変わりつつあることを示しています。
配偶者中心から子育て支援へ、そして繰り下げ受給を選びやすくする方向への転換です。
今後は、年齢差や家族構成、健康状態を踏まえ、加給年金を優先するのか、繰り下げによる増額を重視するのかを個別に検討する必要があります。
年金は一度選択すると原則として変更できません。制度改正を正しく理解したうえで、早めに受給戦略を考えておくことが、老後の安心につながります。
参考
日本経済新聞
年金制度こう変わる 配偶者向け「上乗せ」1割減(2025年12月13日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

