住宅政策というと、これまで長く「住宅を取得する人」を中心に設計されてきました。住宅ローン減税に代表されるように、若い世代が家を買いやすくすることが、住宅支援の主軸だったと言えます。
しかし、人口構造が大きく変わり、持ち家率の高い年金世代が社会の中心的な層になった現在、この前提そのものが揺らいでいます。
年金世代にとって住宅の問題は、「家を買えるかどうか」ではありません。「この家に住み続けられるのか」「将来どうするのか」という、より現実的な問いです。本稿では、年金世代に本当に必要な住宅支援の姿を整理します。
年金世代の住宅問題は「取得」ではない
多くの年金世代は、すでに住宅を取得しています。
問題は、老朽化した住宅をどう維持するか、身体機能の変化にどう対応するか、将来の住み替えや相続をどう考えるかといった点にあります。
にもかかわらず、住宅政策の多くは今なお「これから買う人」を中心に組み立てられています。このズレが、年金世代の住宅不安を見えにくくしています。
「住み続けられるか」という現実的な不安
年金世代にとっての住宅不安は、漠然としたものではありません。
段差が多く転倒の危険がある、冬の寒さや夏の暑さが体にこたえる、修繕費の負担が重いといった、日常生活に直結する問題です。
これらは小さな不便に見えても、積み重なれば生活の質を大きく下げ、医療や介護が必要になる時期を早める要因になります。
本当に必要なのはリフォーム・改修支援
年金世代にとって現実的な住宅支援は、新築取得ではなく、今の住まいを安全で快適に保つための支援です。
バリアフリー化、断熱改修、耐震補強などは、生活の安心につながるだけでなく、将来の医療・介護費の抑制にも寄与します。
しかし、こうしたリフォーム支援は、住宅ローン減税ほど手厚くはありません。「買う支援」に比べ、「住み続ける支援」が後回しにされてきたと言えます。
固定資産税と維持コストの重み
年金世代にとって、住宅は資産である一方で、継続的な負担を伴う存在です。
固定資産税、修繕費、マンションであれば管理費や修繕積立金は、年金収入中心の家計にとって無視できない支出になります。
住宅ローンが終わっても、住居費がゼロになるわけではありません。住宅支援を考える際には、こうした維持コストへの視点が欠かせません。
住み替えや縮小を阻む制度の壁
年金世代の中には、子どもの独立後、よりコンパクトな住まいへの住み替えを考える人もいます。
しかし、住み替えには税負担や手続きの煩雑さといった壁があり、「動きたくても動けない」状況に陥りがちです。
この結果、広すぎる住宅に高齢者が一人で住み続けるケースや、将来的に空き家になる住宅が増えていきます。住み替えを後押しする制度整備は、個人だけでなく住宅市場全体にも重要です。
空き家問題と年金世代の接点
空き家問題の多くは、年金世代と無関係ではありません。
相続で引き継いだ実家、使わなくなった住宅をどうするかという判断は、体力や判断力が十分なうちに行う必要があります。
売却や賃貸、あるいは地域での活用といった選択肢を取りやすくする支援や相談体制は、年金世代にとって実務的に重要な支えになります。
住宅支援は社会保障の一部として考える
年金世代にとって、住まいは医療や介護と同様に生活の基盤です。
安全な住環境を整えることは、結果として医療費や介護費の増加を抑える効果を持ちます。
住宅支援を単なる経済政策としてではなく、社会保障の一部として位置づけ直す視点が、これからますます重要になります。
結論
年金世代に本当に必要な住宅支援は、「住宅を買う人」を前提とした政策ではありません。
今ある住まいに安心して住み続けるための支援、無理なく住み替えや整理ができる環境づくりです。
住宅ローン減税への違和感の背景には、住宅政策全体が現実のライフステージに追いついていないという問題があります。
年金世代の住宅支援を見直すことは、次の世代にとっても持続可能な住宅政策を築くことにつながります。
参考
・日本経済新聞「住宅価格高騰、対策はある? 空き家有効活用後押しを」
・日本経済新聞「地方自治体は独自対策も」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
