住宅ローン減税は、住宅取得を後押しする代表的な政策として長く続いてきました。
しかし、この制度を年金世代の立場から眺めると、どこか噛み合わない感覚を覚えます。
それは「自分たちにはもう関係のない制度だから」という単純な話ではありません。
住宅価格が高騰し、住まいを巡る環境が大きく変わる中で、住宅ローン減税が誰を想定し、誰を想定していない制度なのかが、よりはっきり見えてきたからです。
多くの年金世代は制度の前提に含まれていない
年金世代の多くは、すでに住宅ローンを完済しています。
あるいは、年齢や収入の関係から、新たに住宅ローンを組む立場にありません。
住宅ローン減税は「これから住宅を取得する人」を前提とした制度であり、すでに住まいを持ち、借入を終えた人は、制度の対象外になります。
この時点で、年金世代は制度の想定読者から外れていると言えます。
税額控除という仕組みが生む距離
住宅ローン減税は、税額控除です。
つまり、所得税や住民税を一定額以上納めていることが前提になります。
年金収入が中心となり、課税所得が限られる世帯では、制度が存在していても、その恩恵を十分に受けることはできません。
「税を多く納めている人ほど、減税の効果が大きい」という仕組みは、年金世代にとって制度との距離をさらに広げています。
住宅価格高騰の中で生じる複雑な感情
住宅ローン減税は、ローン残高が大きいほど控除額も大きくなる制度です。
結果として、高額な住宅を購入できる世帯ほど、手厚い支援を受けられます。
一方で、住宅価格の高騰は、年金世代の子や孫の世代の生活を直撃しています。
住居費の負担が増し、結婚や子育ての選択に影響を与えている現実を見れば、「この制度は本当に必要なところに届いているのだろうか」という疑問を抱かざるを得ません。
かつての住宅取得モデルとのズレ
年金世代が住宅を取得した時代には、長期ローンを組んでも、定年前後には完済できるという前提がありました。
老後は住宅費の負担が軽くなり、年金生活に移行するというライフプランが成り立っていたのです。
しかし現在は、住宅価格が年収に比べて大きく上昇し、返済期間が老後まで及ぶケースも珍しくありません。
それでもなお、政策の中心が「住宅を買うこと」に置かれ続けている点に、年金世代は時代とのズレを感じています。
「住み続ける支援」が後回しにされている現実
年金世代にとって切実なのは、新築住宅の取得ではありません。
今の住まいを安全に、無理なく住み続けられるかどうかです。
段差の解消や手すりの設置、断熱改修や耐震補強など、生活の質や安全性に直結する支援は、住宅ローン減税の枠外にあります。
「買うための減税」は手厚い一方で、「住み続けるための支援」が後回しにされている点に、違和感が生まれています。
住宅は資産であり、負担でもある
年金世代にとって、住宅は資産であると同時に、固定費を伴う存在です。
固定資産税や修繕費、マンションであれば管理費や修繕積立金は、年金生活の中で無視できない負担になります。
住宅ローン減税は、こうした「持ち続けるコスト」には何の答えも示していません。
制度が現役世代の取得支援に偏っていることが、年金世代の実感との乖離を生んでいます。
年金世代が感じる本当の不安
年金世代が本当に気にしているのは、減税があるかどうかではありません。
老後に安心して住み続けられるのか、将来住み替えが必要になったときに動けるのか、空き家や相続の問題をどう整理するのか、といった点です。
住宅ローン減税は、こうした不安に直接応える制度ではありません。
そのため、「自分たちは制度の外側にいる」という感覚が強まっていきます。
結論
年金世代から見た住宅ローン減税の違和感は、制度そのものへの不満というより、住宅政策全体の重心に対する疑問です。
住宅を「買う人」を中心に設計された政策は、人口構造や住宅事情が変わった現在、限界を迎えつつあります。
これから求められるのは、取得支援だけでなく、住み続ける人、住み替える人、住宅を整理する人を含めた視点です。
住宅ローン減税への違和感は、住宅政策を次の段階へ進めるための重要なサインと言えるでしょう。
参考
・日本経済新聞「住宅価格高騰、対策はある? 空き家有効活用後押しを」
・日本経済新聞「地方自治体は独自対策も」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
