2004年改革によって、日本の公的年金制度は「人口構成の変化を自動的に調整に反映させる」方向へ大きく転換しました。賦課方式を基盤としたうえで、賃金・物価・人口のインデクセーション(調整)を組み合わせた多層的な仕組みは、制度全体の持続性を高める画期的な改革といえます。
しかし、その後の運用過程では、制度が想定どおり機能しなかったことによる2つの大きな問題が生じました。この記事では、2004年改革後に浮上したインデクセーションの「機能不全」と、それが制度運営に与えた影響について解説します。
1. マクロ経済スライドが機能しなかった理由
2004年改革の中心にあったのが、被保険者数の減少と平均余命の伸びに応じて給付水準を調整する「マクロ経済スライド」です。本来であれば、年金財政の圧力を緩和する重要な役割を果たすはずでしたが、導入後しばらくは十分に機能しませんでした。
① 過去の物価スライド凍結の影響
2000〜2002年度に物価が下落した際、年金の名目額を下げることへの反発を避けるため、物価スライドが凍結されました。その結果、04年時点で年金給付は「本来より高い実質水準」に膨らんだまま残りました。
2004年改革では、この「未調整分(名目下方硬直性)」をまず解消し、その後にマクロ経済スライドを発動する仕組みとしました。
しかし、
- 当時のデフレが長引き、物価上昇による「プラス改定を行わない」ことで未調整分を解消する方針が、結果として長期間進まなかった
- マクロ経済スライド自体が「賃金・物価が下落する局面では停止される」という設計であった
という二つの要因が重なり、制度が想定どおりに動かなかったのです。
② 2016年改正で繰越方式に
2016年改正により、スライド停止時に適用できなかった分を翌年以降に繰り越す方式が導入され、機能不全は改善に向かいました。しかし、完璧に解消されたわけではありません。
- 毎年フルに適用される場合と比べて調整が遅れる
- 未調整分が累積する懸念が残る
という構造的問題は今も指摘されています。
2. 基礎年金の「賃金スライド不足」がもたらした歪み
もう一つの問題は、基礎年金におけるインデクセーションの不徹底です。
① 基礎年金は「前年度の年金額が基準」
厚生年金の報酬比例部分は賃金に連動していますが、基礎年金は「前年度の年金額」に基づき改定される仕組みでした。これは、
- 物価が下落しても、賃金がそれ以上に落ち込む場合
- 賃金の下落分が完全に反映されない
という事態を招きました。
② デフレ期には「実質的に高い年金」に
賃金が下がっても物価の下落幅しか反映されないため、基礎年金は実質的に高い水準になり、財政負担が膨らみました。
結果として、
- 基礎年金に対してマクロ経済スライドを長く適用する必要が生じた
- 給付水準が大幅に低下するリスクが生じた
ことが問題化しました。
③ 被害を受けやすいのは「就職氷河期世代」
とくに影響が大きいとされるのが、賃金カーブが弱い就職氷河期世代です。基礎年金の水準低下が続くと、将来の受給額が著しく低くなる恐れがあり、制度設計上の公平性にも影響します。
このため近年では、厚生年金の積立金を活用して基礎年金を補う案なども議論されています。
3. インデクセーションの「機能不全」は制度全体に波及する
2004年改革は、賦課方式を維持しつつ人口動態の変化に対応するという点で重要な意義があります。しかし、インデックス調整が適切に作動しないと、
- 年金財政が悪化
- 給付水準の調整が必要以上に長期化
- 世代間の不公平
- 被保険者の将来不安の増大
といった影響が広範囲に及びます。
年金制度は極めて長期の契約であり、インデックスの「遅れ」や「機能不全」が後に大きな影響をもたらすことは、今回の問題が示すとおりです。
結論
2004年改革後の年金制度は、賦課方式を基盤に、賃金・物価・人口のインデックス調整を組み合わせた巧妙な仕組みを持っています。しかし、その機能が停止・遅延した期間が長引いたことで、本来想定されていた調整メカニズムが働かず、制度全体に歪みを残しました。
マクロ経済スライドの繰越方式導入や基礎年金の賃金スライド導入など、改善策は講じられてきましたが、今後も人口動態の変化が続く以上、インデクセーションを着実に機能させる制度運営が不可欠です。制度の信頼性を保つ上でも、調整を「先送りしない」運用の重要性は増しています。
出典
・日本経済新聞「持続可能な社会保障(6) 年金制度改革後の2つの問題」
・厚生労働省資料(マクロ経済スライド、基礎年金改定ルール)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
