病気やケガで働けなくなったとき、生活費はどうなるのか。
この問いは、多くの人が漠然と不安を抱きつつも、具体的に備えていない領域のひとつです。医療技術が進歩した現代では、命を落とすリスクよりも、長い療養期間を経て「働けない状態が続く」リスクが家計に大きな影響を与えています。
本総集編では、全6回の内容を横断的に整理し、「就業不能リスクの正しい理解」「社会保障でカバーできる部分」「就業不能保険の特徴と選び方」を一つの記事で俯瞰できるようまとめます。
1. 働けなくなるリスクの現実
現代は、治療が長期化しやすい疾病が増えています。
- がんの長期治療
- 心疾患・脳疾患の後遺症
- 精神疾患(うつ病、適応障害)
- 慢性疾患による長期療養
- リハビリが必要なケガ
生命保険文化センターの調査では、世帯主が働けなくなることへの不安を抱える人は74.6%にのぼり、経済的な懸念を持つ人が多いことがわかります。
一方、働けなくなれば収入は早い段階で減少します。
しかし、家賃・光熱費・食費・保険料などの「生活費」は止まりません。
働けない期間が半年以上に及ぶと、預貯金の急速な減少・ローン返済の遅延など、家計の土台が揺らぎやすくなります。
2. 会社員と自営業で大きく異なる「収入の守られ方」
■ 会社員・公務員
公的・企業の仕組みで収入が一定程度守られています。
- 有給休暇
- 傷病手当金(最長1年6カ月、収入の約3分の2)
- 障害年金(1~3級、厚生年金部分あり)
- GLTD(企業型の長期所得補償制度)を導入する企業も増加
会社員は“穴”が比較的小さい構造です。
■ 自営業・フリーランス
一方で、社会保障が手薄です。
- 傷病手当金なし
- 障害年金は基礎年金1・2級のみ
- 収入は働けなくなった瞬間にゼロになる可能性が高い
自営業は「働くことが収入のすべて」に直結し、就業不能リスクがより深刻です。
3. 就業不能保険とは何か
就業不能保険は「病気やケガで長期に働けなくなったときの生活費」を補う保険です。
他の保険との違いは次の通りです。
| 保険名 | 主目的 |
|---|---|
| 医療保険 | 医療費を補う |
| 収入保障保険 | 死亡・高度障害時に家族の生活を守る |
| 所得補償保険 | 短期の収入減に備える(損保) |
| 就業不能保険 | 長期の収入喪失に備える(生保) |
就業不能保険は「生活費」を守るための保険であり、医療費を補う医療保険とは役割が異なります。
4. 加入時のポイントは“約款の細部”
就業不能保険は、商品ごとに給付条件が大きく異なるため、以下のポイントを必ず確認する必要があります。
- 就業不能の定義(独自基準 or 公的基準)
- 在宅療養が対象か
- 復職後の取り扱い(再発・時短勤務・部分復職)
- 免責期間(60・90・180日など)
- 精神疾患の扱い(対象か/期間制限か)
- ハーフ型の有無(初期が半額になる設計)
- 給付期間(60歳/65歳/70歳/期間満了まで)
ホスピタリティの高い商品ほど複雑化しやすく、独自基準の読み込みが重要になります。
5. 商品選びと保険料の考え方
保険料は「免責」「給付額」「給付期間」に大きく左右されます。
■ 会社員の合理的な考え方
- 傷病手当金で1年6カ月はある程度カバー
- →免責は長めでもよい
- →ハーフ型と相性が良い
- →給付期間は60〜65歳が目安
■ 自営業・フリーランスの合理的な考え方
- 初期の収入が最も重要
- →免責は短め
- →ハーフ型はやや不向き
- →給付期間は長め(65〜70歳など)
家計の固定費と社会保障の厚さを見たうえで、必要最低限の保障額を決めることが大切です。
6. 就業不能保険の最新トレンド
最近の市場動向には次の特徴があります。
■ 販売停止が増えている
短期の就業不能商品は、不正請求・モラルリスクの増加などにより販売停止が相次いでいます。
■ 精神疾患への対応が拡大
- 保障対象に含める商品が増加
- 給付期間に制限が付くことが多い
■ 在宅療養でも給付される商品が増えている
入院中心の設計から、在宅療養・訪問診療などへの対応が強化されています。
■ 公的基準連動型が増加
認定の公平性・透明性を重視する流れが広まっています。
総じて、「選択肢は減るが、内容は精緻化している」という方向です。
結論
働けなくなるリスクは、医療技術が進んだ現代だからこそ現実味を帯びています。収入は早い段階で途絶え、生活費は止まりません。特に自営業・フリーランスは社会保障が手薄であり、会社員であっても傷病手当金だけでは長期療養を完全にカバーできません。
就業不能保険は、生活費という“生きるための支出”を守るための重要な保険です。ただし、商品ごとに給付条件が大きく異なるため、約款の確認は不可欠です。
社会保障・家計の現状・職業・生活設計を踏まえて、
「必要な場面で、必要なだけ」
保障を準備することが、就業不能リスクへの合理的な備え方といえます。
出典
・生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(2024年度)」
・日本FP協会 コラム
・健康保険法/国民年金法/厚生年金保険法
・各生命保険会社の就業不能保険パンフレット・約款
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

