専業主婦100万人の“働きたい”にどう応えるか― 人生100年時代、女性が働くことの意味を考える ―

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共働きが多数派になった今も、専業主婦という生き方は決して過去のものではありません。
総務省の「労働力調査」(2024年)によれば、国内の専業主婦は約508万人。そのうち「働きたい」と希望している人は103万人に上ります。
これは労働力人口の約2%に相当します。人手不足が叫ばれる今、この“眠れる100万人”の存在をどう活かすかは、社会全体の課題といえます。


■ “働きたいのに働けない”100万人という現実

東京大学の近藤絢子教授は「家庭の事情が就業を妨げている」と指摘します。
OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の女性の家事・育児などの無償労働時間は男性の約5倍。
欧米主要国の2倍近くにあたり、家の中に存在する「見えない仕事」の偏りが、就業の大きな壁になっています。

一方で、大和総研の是枝俊悟主任研究員は「非正規雇用など条件が悪ければ、働くより家庭を優先する層も多い」と分析します。
現実として、女性の正規雇用率は20代後半をピークに下落する“L字カーブ”が続いており、出産・育児を機にキャリアを中断した後、再び戻ることは容易ではありません。


■ “働かない”のではなく、“働けない”構造

女性の就業を妨げるのは、個人の意思ではなく社会の仕組みです。
「子どもが小さいうちは無理」「介護と両立できない」「ブランクが長くて採用されない」――。
こうした声は、就業希望者の多くが抱える共通の現実です。

企業側の柔軟な働き方や再雇用制度の整備が進めば、状況は大きく変わります。
短時間勤務、在宅ワーク、キャリア再設計支援など、家庭と両立できる選択肢が広がることで、100万人のうち多くの人が再び働くことができるでしょう。
この層が労働市場に戻れば、年1兆円規模の経済効果が見込まれるという試算もあります。


■ 税・社会保障制度も壁の一因

税制や社会保障の仕組みも、就業の意思をくじく要因になっています。
いわゆる「年収の壁」――103万円・106万円・130万円といった基準が、働き方を制限する構造的な問題です。
「扶養内に抑えた方が得」という制度のままでは、再就業を促すことは難しいでしょう。

政府も壁の緩和策を進めていますが、企業現場の対応は追いついていません。
税理士・FPとしての視点から見ても、「働くほど損をする」ように感じられる制度は再設計が必要です。
本来、税や社会保障は“働くことを後押しする仕組み”であるべきなのです。


■ 人生100年時代、女性が働くことの意味

ここから少し視点を変えてみましょう。
日本では、女性の平均寿命は87歳を超え、男性より約6年長生きします。
人生100年時代を見据えると、20代や30代で専業主婦として家庭に入っても、60歳を過ぎてからの人生が40年近く残ることになります。

その長い時間をどう生きるか――。
ここにこそ「働くことの意味」が問われます。

働くことは、収入を得るだけでなく、

  • 社会とのつながりを持ち続けること
  • 新しい知識や技術に触れること
  • 自分の役割や存在価値を感じること
    でもあります。

仕事を通じた社会参加は、心身の健康にも好影響をもたらすという研究結果もあります。
特に女性の場合、育児や介護などで他者のために尽くしてきた時間のあとに、“自分のために働く”ことが、自己実現にもつながるのです。


■ 長く生きる時代にこそ、働き方の選択肢を広げよう

かつて「専業主婦」は家族のために生きる象徴でした。
しかし、人生100年時代を迎えた今は、「自分らしい生き方」を再設計できる時代です。
再就職や副業、地域活動、オンライン起業など、働き方は多様化しています。

「もう年だから」「ブランクがあるから」といった思い込みを乗り越え、
人生の後半を豊かに生きるための“新しい働くステージ”を築くことができます。

税理士・FPとしても、こうした人生の再設計を支援することが求められます。
税・年金・社会保険の仕組みを正しく理解しながら、
「働いても損をしない」選択肢を一緒に考える――それが専門職としての使命です。


■ 「働ける社会」から「働きやすい社会」へ

これからの社会は、単に「働けるかどうか」ではなく、
「働きやすいかどうか」が問われます。
企業・行政・家庭、それぞれの視点からの改革が欠かせません。

  • 企業:短時間正社員やリモート勤務など柔軟な雇用制度
  • 行政:地域単位の再就職支援・職業訓練の拡充
  • 家庭:家事・育児・介護の分担見直しと相互理解

そして私たち個人も、“働く”を「生き方の選択肢」として捉え直す必要があります。
それは、長い人生を自分らしく生きるための「経済的・心理的自立」の基盤にもなるのです。


■ おわりに:100歳時代を見据えた「生涯現役」という生き方

専業主婦の100万人が再び働き始めることは、
単に労働力を補うこと以上の意味を持ちます。
それは「人生のステージを自分で選び直す」という、新しい生き方の始まりです。

女性が長く生きる社会だからこそ、
“働くこと”を通じて自分らしい人生をデザインする。
それは、経済的にも精神的にも自立した、
「人生100年時代の生涯現役」というあり方を象徴しているのではないでしょうか。


出典:
2025年10月7日 日本経済新聞朝刊「専業主婦、就業希望100万人」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91759710W5A001C2TLH000/?n_cid=dsapp_share_ios


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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