宿泊税と地域財政 ― 都市と地方の格差をどう埋めるか

FP
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東京・京都・大阪――。
いずれも観光都市として世界から注目を集めていますが、宿泊税をどう設計し、どのように使っているかはそれぞれ大きく異なります。
観光客が戻ったいま、「宿泊税=観光地の未来を支える地域財源」としての機能が、改めて問われています。


■ 東京 ― 財政余力があるが、制度は「低負担型」

東京都の宿泊税は2002年に導入された全国初の事例。
課税額は1人1泊あたり100円または200円(宿泊料金が1万円未満の場合は非課税)と、制度創設当初から20年以上変わっていません。

その結果、税収はコロナ前比で2.5倍(約69億円)に達しているものの、
観光産業振興費全体(約306億円)のわずか2割程度
しかまかなえていません。

それでも東京都が「税率引き上げに慎重」なのは、豊富な一般財源が背景にあります。
税収構造に余裕があるため、「宿泊税はあくまで象徴的な税」と位置づけており、
地方都市に比べると“観光税”としての役割は限定的です。


■ 京都 ― 税を観光環境整備へダイレクト投入

一方、京都市の宿泊税は観光課税の成功例として国内外から注目されています。
2018年に導入されたこの制度は、宿泊料金に応じて200~1,000円を課税。
2026年3月からは最高税額1万円への引き上げが予定されています。

背景には、観光需要の急回復による「オーバーツーリズム(観光過密)」問題があります。
混雑緩和やごみ対策、観光地交通の分散化などに充てるため、増収分を明確に目的税化している点が特徴です。

京都市は財政再建中でもあり、宿泊税が観光政策の主要財源として機能しています。
つまり、東京のように“財源の一部”ではなく、“都市運営の柱”に位置づけられているのです。


■ 大阪 ― 国際イベントと連動する課税設計

大阪府も2017年に宿泊税を導入。
宿泊料金に応じて100~300円を課税してきましたが、2024年9月には課税対象を拡大しました。
万博やIR(統合型リゾート)など国際イベントを控え、観光・MICE(国際会議)戦略と一体的に運用しています。

府税として徴収された宿泊税は、観光振興費用や広域プロモーションに充当。
とくに大阪府は「訪日外国人の再訪率」を重視し、単なる税収確保でなく地域ブランド形成のための投資に転換しています。

京都が“観光環境整備”、大阪が“国際戦略”、
東京が“税収安定”を重視するように、都市ごとに宿泊税の性格は異なるのです。


■ 地方都市 ― 「導入したくてもできない」構造問題

課題は、地方です。
観光需要が伸びる一方で、宿泊税の導入に踏み切れない自治体も少なくありません。

主な理由は次の2つです。

  1. 事務負担とコスト
     徴収・納付事務を担う宿泊業者にとって、宿泊税は追加業務。
     特に小規模旅館では、経理処理が煩雑になることを懸念する声が多い。
  2. 観光依存リスク
     「観光客が減ったときに税収が落ち込む」「増税イメージが悪影響」といった慎重論が根強く、政治的判断が難しい。

その結果、観光インフラが劣化しても財源を確保できないという“構造的な格差”が生まれています。
都市部に宿泊税収が集中し、地方は恩恵を受けにくい現実です。


■ 「観光税」を超えて ― 地域間連携と税の再設計へ

観光客が国内外を自由に行き来する時代において、
「宿泊地だけが負担を背負う」仕組みは長期的には持続しません。

欧州の一部では、宿泊税を広域連携税制(地域間プール)として運用する例もあります。
複数都市が共同で税収を積み上げ、環境保全や地域交通の整備に再配分する仕組みです。

東京や大阪が蓄える観光関連税収を、地方観光地とのネットワーク整備に活用する。
そうした「都市から地方へ」の循環が実現すれば、宿泊税は単なる地方税を超え、
日本全体の観光財政モデルへと進化する可能性があります。


■ まとめ ― 観光と税の共生を目指して

都市税方式最高税額主な使途
東京定額制(100~200円)200円観光振興費の一部
京都定額制(200~1,000円)→1万円へ引き上げ予定1万円混雑・ごみ対策など環境整備
大阪定額制(100~300円)+課税対象拡大300円観光・MICE推進
地方都市導入検討段階または未導入財政制約が課題

観光は「来てもらう」だけでなく、「支え合う」時代へ。
宿泊税の見直しは、観光都市の成熟度を映すバロメーターでもあります。
税の公平性・透明性、そして地域間の連携――。
これからの宿泊税は、観光の質と地域の持続可能性を問う試金石となるでしょう。


出典:2025年10月23日 日本経済新聞「宿泊税でみる東京観光(上)」ほか
京都市・大阪府の公表資料、観光庁統計等を参考に再構成


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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