宿泊税が映す「共生の観光」 ― 首長が語る、持続可能な東京への課題と期待

FP
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東京都が2002年に全国で初めて導入した宿泊税。
それから20年以上が経ち、東京の観光は“人を呼ぶ時代”から“地域と共に生きる時代”へと移りつつあります。
インバウンドが再び勢いを取り戻し、外国人宿泊客が日本人を上回った今――。
制度の見直しは、「どこに税をかけるか」だけでなく、「何のために税を使うか」という根源的な問いに向かっています。


■ 台東区長が語る「観光の変化」と地域の手応え

浅草寺や上野公園を抱える台東区は、東京の観光を象徴する地域。
10年前と比べ、観光客の姿もその目的も大きく変わりました。

「爆買いのバスツアーから、家族や少人数グループが中心に。
彼らはSNSで事前に情報を集め、行動も多様化している」
― 台東区・服部征夫区長

観光の形が変わると、地域経済の構造も変わります。
浅草の外貨両替所では、1件あたりの平均取扱額が2018年度の2万5千円から、
2024年度には4万円へと6割増。円安効果だけでなく、
地域で「使われるお金」が増えていることを示しています。


■ “観光マナー”の時代 ― 文化の共有が新しい課題に

観光客が増えるほど、生活の中に摩擦も生まれます。

「ゴミのポイ捨て、スーツケースでの混雑、生活リズムの違い――。
マナーや文化の違いが最大の課題です」
― 台東区長

区では、宿泊施設に多言語のチラシを置き、
“訪日客も参加できるごみ拾いイベント”を始めるなど、
「ルールを教える」から「文化を共有する」観光への転換を進めています。

観光地を整えるだけでなく、「住民と観光客が共に地域を支える仕組み」が求められています。
その原資をどう確保し、どこに再配分するか――まさに宿泊税の出番です。


■ 首長が望む「宿泊税の再設計」

東京都は2025年度に向けて宿泊税の改定を検討しています。
その議論を現場で支えているのが、区長たちの実感です。

「持続可能な観光地づくりには地域の協力が不可欠。
マナー啓発やゴミ対策、混雑緩和など、
自治体が独自に取り組む事業を都が重点的に支援してほしい」
― 台東区長

観光による「にぎわい」を維持しながら、
生活環境との調和を図る――。
そのバランスを取る財源として、宿泊税の役割がますます重要になっています。


■ 観光と生活をつなぐ“共生型財源”へ

宿泊税はもともと、観光振興費の一部として設計された制度です。
しかし、いま現場で求められているのは「振興」よりも「共生」。

観光によって生じる課題(ゴミ・交通・騒音・文化摩擦)を、
地域住民・観光事業者・行政が共に解決するための“共通財布”として、
宿泊税を再設計する流れが強まっています。

京都市では混雑対策費に、
大阪府ではMICE(国際会議・展示会)戦略に、
そして東京では――「地域と観光の共生」こそがキーワードになるでしょう。


■ 専門家の視点 ― “分かりやすい税”こそ信頼の条件

識者からも、制度の「見える化」を求める声が高まっています。

「宿泊税は“取られている”ではなく、“使われている”と感じられる設計でなければならない」
― 政策研究大学院大・観光政策学教授

納税者(宿泊者)だけでなく、地域住民や事業者も、
その使い道を“見て納得できる税”にする。
AIによるデータ公開や、自治体単位での「宿泊税ダッシュボード」整備も今後の論点になりそうです。


■ 結び ― 税が「観光の質」を決める時代へ

宿泊税の議論は、もはや“観光業界の話”ではありません。
それは、観光都市・東京がこれからどんな地域社会を描くのか、という問いそのものです。

税の見直しは、観光の見直し。
観光の見直しは、暮らしの見直し。

都の次なる制度改正が、
「人と地域が共に息づく観光」への一歩となることを期待したいところです。


出典:2025年10月25日 日本経済新聞
「宿泊税でみる東京観光(下) 首長や識者に聞く 制度どう変える?」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO92154990U5A021C2L83000
ほか、観光庁・東京都・台東区資料を参考に再構成

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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