家賃引き上げトラブル急増 ― 借り手が知っておくべき対処法と冷静な備え

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「契約更新のタイミングで、いきなり家賃を25%以上上げると言われた」

「断れば契約違反だと主張され、退去するしかないのかと不安になった」

こうした声が、最近消費生活センターに数多く寄せられています。特に東京都内では、家賃相場の高騰と大家側の増額要求が重なり、借り手と貸し手の摩擦が激しくなっています。

東京都消費生活総合センターによれば、家賃引き上げに関する相談は2020年度の326件から2024年度には662件へと倍増。2025年度も6月末時点で193件と、前年を上回るペースで増えています。

背景には、東京23区の平均賃料が1年で一気に10%以上上がるなど、かつてないほどの相場上昇があります。住まいは生活の基盤。だからこそ「急な値上げをどう受け止め、どう対応するべきか」が、多くの人にとって切実なテーマになっています。

家賃が上がる理由とは

なぜここまで家賃は上昇しているのでしょうか。主な要因は以下の通りです。

1. 地価上昇による税負担増

大家にとって大きなコストである固定資産税や都市計画税は、地価の上昇に比例して増えます。特に都心部では税負担が急増し、これを理由に家賃に転嫁する動きが強まっています。

2. 物価・人件費の高騰

建材費や修繕費、管理委託費などが軒並み上がっています。清掃や管理人業務の人件費も上昇し、維持管理コストは過去にない水準。こうしたコスト増を埋める名目で、値上げを打ち出すケースが増えています。

3. 賃貸需要の逼迫

東京23区では人口流入が続き、空室率は低下傾向。供給より需要が強いため「多少家賃を上げても借り手は見つかる」という大家の読みが働いています。

4. 外国人投資家の参入

円安の影響で海外資本による不動産購入が活発化。民泊転用を狙い、既存の住民を退去させるため強引に家賃を吊り上げる事例まで確認されています。板橋区の中国籍オーナーが家賃を相場の2〜3倍に設定し、共用エレベーターを停止して住民の3割が退去に追い込まれたケースは象徴的です。

借地借家法が守る借り手の権利

「値上げを断れば追い出されるのでは」という不安を抱く人は多いですが、実際には借地借家法によって借り手は強く守られています。

値上げが認められる条件

大家が家賃を引き上げられるのは、次の条件がある場合に限られます。

  1. 土地や建物にかかる税負担の増加
  2. 経済事情の変動(物価や賃料相場の変化など)
  3. 周辺の類似物件との不相当性

これらの根拠が乏しければ、単に「上げたいから上げる」という理由は認められません。

借り手は拒否できる

納得できない場合、借り手は値上げに同意しなくてもよいのです。合意できなければ民事調停、それでも決まらなければ裁判に進みます。裁判所が増額を認めたとしても、借り手はその時点から差額を支払えば足りるため、遡って高額請求される心配はありません。

契約形態の違い

  • 普通借家契約:更新が前提。借り手に不利な変更は合意がなければできません。
  • 定期借家契約:更新なし。契約終了時に退去が前提で、再契約には大家の条件受け入れが必要。

自分の契約がどちらかを確認することが、対応の大前提です。

実際の相談事例に学ぶ

実際に寄せられた相談事例を見てみましょう。

  • 事例1:更新時に25%の値上げを迫られた40代女性
     8年間住み続けた物件で初めて値上げを告げられ、拒めば契約違反と脅されたケース。専門窓口に相談した結果「従前の家賃を払い続けてよい」と助言され、強制退去はされずに済んだ。
  • 事例2:外国人オーナーによる嫌がらせ
     家賃を倍以上に吊り上げ、共用設備を停止させるなど事実上の退去圧力をかけられたケース。住民の多くが退去を余儀なくされたが、後に国会で取り上げられ行政対応が強化された。
  • 事例3:相場との乖離を理由に10%の値上げ要求
     周辺の家賃が上がったことを根拠に要求されたが、借り手が調査資料を示し「自分の部屋は築年数や設備から見て相場より妥当」と反論。結果的に値上げは見送られた。

借り手が取るべき行動

1. 算定根拠を求める

「なぜ上げるのか?」を必ず確認しましょう。相場資料や税負担の増加といったデータを求めることが重要です。

2. 感情的にならず冷静に交渉

大家も事業者です。感情論ではなく、データや法的根拠に基づいて淡々と対応する方が有効です。

3. 従来通りの家賃を払い続ける

値上げに応じなくても、家賃そのものは払い続けましょう。滞納すると不利になるため、必ず「従来の金額」を支払い続けることが鉄則です。

4. 専門機関に相談する

  • 消費生活センター
  • 弁護士(初回30分相談は無料の場合も多い)
  • 不動産適正取引推進機構

など、専門家を味方につけることで安心して交渉できます。

FP・税理士の視点から

家賃の上昇は、単なる毎月の支出増にとどまりません。

例えば家賃が2万円増えれば年間24万円。5年住めば120万円の負担増です。これは教育資金や老後資金に直結する大きな数字です。

また、更新料や引っ越し費用が加わればさらに家計は圧迫されます。ライフプラン全体を見直し、場合によっては「家賃交渉」だけでなく「住み替え」や「持ち家化」も選択肢に入れる必要があります。

まとめ

  • 家賃引き上げを巡るトラブルは急増している
  • 背景には地価上昇・物価高・需給逼迫・外国人投資家の影響がある
  • 借地借家法により借り手は守られており、一方的な値上げに応じる必要はない
  • 契約形態を確認し、冷静に交渉・相談すれば強制退去は避けられる
  • 家賃増額は家計全体に大きな影響を与えるため、FP的な視点からも早めに備えが必要

住まいは生活の土台です。知識を持ち、冷静に対応することが、借り手が安心して暮らすための最良の武器になります。

(参考:2025年9月7日付 日本経済新聞)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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