導入
2025年6月末時点の資金循環統計によれば、家計の金融資産残高は2239兆円と過去最高を更新しました。報道では、外貨建て資産や国内株式が軒並み比率を高めていることが注目されています。これまで「半分以上が円の現預金」とされてきた日本の家計に、ようやく変化の兆しが現れています。
現預金比率50%割れの意味
家計の金融資産に占める現預金比率は50.3%まで低下しました。外貨預金を除く「円の現預金」だけでみれば、ほぼ50%ちょうど。長年にわたり日本の家計を象徴してきた「現預金中心主義」にも、ついに変化の波が押し寄せています。
現預金比率が低下するということは、裏を返せば投資や外貨運用に回る資金が増えているということです。これまでの日本人の行動原理は「安全第一」「元本保証」が基本でしたが、インフレが常態化しつつある今、「守りのための投資」が現実的な選択肢となってきました。
フローベースで見た資金の「流れ」
資金循環統計のフローベース(過去4四半期平均)をみると、「円の現預金」は2021年3月末を境に減少傾向をたどり、2025年6月末にはついに純流出へ転じました。
これは2006年12月末以来、実に18年半ぶりの現象です。
当時の流出は、ペイオフ(預金保険の全額保護)凍結解除という特殊要因によるものでした。しかし今回は制度要因ではなく、インフレ環境そのものが家計行動を変えている点が決定的に異なります。
「防衛としての投資」時代へ
今回の流れは、単なる資産運用ブームではありません。
むしろ、「インフレから家計を守る」ための防衛的な投資としての性格が強いのが特徴です。
- 外貨預金・外貨建て債券で通貨リスクを分散
- 株式・投資信託でインフレに強い実物資産を取り込む
- 不動産への取得意欲も高まり、賃料収入や資産保全を意識
つまり、かつての「資産を増やすための投資」から「価値を減らさないための投資」へと意識が転換しつつあります。これは、デフレからインフレへの構造的転換を如実に示すものです。
欧米との比較と今後の展望
依然として日本の家計資産の約半分が円の現預金であることは、欧米と比べると依然として特異です。
たとえば米国では、現預金比率は約13%、欧州でも20%台にとどまります。
それでも今回のように日本でも50%を割り込む兆候が見えたことは、歴史的な転換点と言えるでしょう。
今後、インフレが持続する限り、家計部門の資金シフトは続く可能性が高いと考えられます。
「デフレ最適」だった資産構成が、「インフレ最適」に最適化される時代。
その動きはゆっくりと、しかし確実に進んでいます。
結論
家計金融資産2239兆円という過去最高の数字の裏で、日本人の「お金の置き場所」が変わり始めました。
金利がつかない円預金に留めるより、インフレや円安リスクを見据えて資産を分散させる――。
それは投機ではなく、リスク管理としての投資という新常識です。
私たちの家計は、いままさに「インフレ最適」への舵を切っています。
将来の生活を守るために、現預金から一歩踏み出す時代が到来しています。
出典・参考:
- 日本経済新聞「家計は『インフレ最適』に移行」(2025年10月28日付朝刊)
- 日本銀行「資金循環統計(2025年6月末時点)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
