前回は、成年後見制度や任意後見制度がマンション生活にどう役立つかを事例で紹介しました。
今回はさらに一歩進めて、「家族信託」を使ってマンションの管理や相続税対策をどう進めるかを考えてみましょう。
相続税の負担が増える時代
近年、地価やマンション価格の上昇により、都内では「自分には相続税は関係ない」と思っていた家庭にも課税されるケースが増えています。
国税庁の統計でも、相続税の課税割合は全国平均で約1割、東京都内では15%超に達しています。
特に都心のマンションは評価額が高いため、相続税の対象となりやすい資産といえます。
認知症になると困る「相続対策の空白」
認知症を発症すると、
- 生前贈与
- 相続税対策のための資産移動
- マンション売却
といった意思決定ができなくなります。
つまり、「対策を打ちたいのに打てない」空白状態に陥ってしまうのです。
事例:マンションと相続税のシミュレーション
- Aさん(80歳、一人暮らし)
- 都内マンション(評価額5000万円)を所有
- 預貯金2000万円
👉 合計7000万円の財産があります。
Aさんが亡くなったとき、相続人は子ども2人。基礎控除は 3000万円+600万円×2人=4200万円。
課税対象額は 7000万円-4200万円=2800万円。
相続税額は数百万円規模になる可能性があります。
ここで生前に贈与や資産移動を考えていても、認知症を発症すると実行できないのが大きなリスクです。
家族信託の活用
「家族信託」とは、信頼できる家族に資産の管理・運用・処分を任せる仕組みです。
信託契約を結ぶことで、認知症になっても受託者(子どもなど)が代わりに手続きを進められます。
具体的なメリット
- 管理費・修繕費の滞納防止
信託財産の口座から自動的に支払いが可能。 - 売却・買い替えがスムーズ
認知症発症後でも、受託者がマンションを売却し資金を確保できる。 - 相続税対策を継続できる
贈与や資産移動を計画的に行い、相続発生時の税負担を軽減。
FP・税理士視点からの注意点
- 家族信託は万能ではない
相続税そのものを減らす効果はなく、対策を継続できる体制を整える仕組みと理解すべき。 - 税務とセットで考える
贈与税や不動産取得税など、信託に伴う税務処理を専門家と一緒に確認することが大切。 - 遺言との併用
家族信託と遺言を組み合わせることで、「資産の管理」と「最終的な承継先」を両立できる。
まとめ
相続税対策を考えるうえで、認知症リスクは見過ごせません。
「対策をしたくてもできなくなる」前に、家族信託で将来の仕組みを整えることが重要です。
東京都のマンション社会においては、管理・修繕・相続税対策をセットで考えることが、安心の暮らしと資産承継につながります。
📌次回(第4回)は、「遺言と相続対策 〜マンションをめぐる現実的な準備〜」 を解説します。
📌 参考 日本経済新聞朝刊(2025年9月26日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
