親が介護施設に入居して実家が空き家になったとき、「売却」や「生前贈与」という選択肢以外に、そのまま親名義で保有し続け、相続が発生してから考えるという方法もあります。
これは最も「先送り」的な選択肢ですが、税務上のメリットも多く、一定の合理性があります。今回は、この方法のメリットとデメリットを整理してみましょう。
メリット
1. 贈与税や譲渡所得税がかからない
生前に名義を移す場合には贈与税や不動産取得税が発生しましたが、相続の場合は原則としてこれらの税金は不要です。
相続税の対象にはなりますが、それ以外の課税を避けられるのは大きなメリットです。
2. 「小規模宅地等の特例」で相続税評価を減額できる
相続税を計算する際、330㎡までの土地については評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」があります。
実家を相続する場合、この特例が適用できれば大幅に節税できます。
3. 相続後の売却で「相続空き家の3,000万円特別控除」が使える場合も
相続した空き家を売却する際、一定の条件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度があります。
耐震基準や売却期限など条件はありますが、適用できれば税負担を大きく抑えられます。
デメリット
1. 空き家を維持し続ける負担
相続が発生するまで、空き家を管理しなければなりません。
- 定期的な換気・清掃
- 雨漏りやシロアリの点検
- 庭の草木の手入れ
- 防犯対策
これらには時間と費用がかかります。放置すれば近隣トラブルにつながり、最悪の場合「特定空き家」に指定され、固定資産税が増えることもあります。
2. 相続人同士のトラブルリスク
不動産は分けにくい財産です。
「住みたい人」「売りたい人」「貸したい人」と相続人の意見が分かれることは珍しくありません。
結果的に話し合いが難航し、相続トラブル(=争族)の火種になることがあります。
3. 売却のタイミングが遅れる
相続発生後に相続登記・遺産分割協議を経なければ売却できません。手続きが整うまで買い手を逃してしまうリスクもあります。
事前に考えておきたいこと
相続まで親名義で持ち続ける選択肢をとる場合、次の点を家族で話し合っておくことが重要です。
- 空き家の維持管理を誰が担当するのか
- 管理費用は誰が負担するのか
- 将来的に「売る」「残す」「貸す」どの方向性を考えているのか
- 相続発生後に小規模宅地等の特例や3,000万円控除が使えるかどうか
こうした確認をしておけば、相続時の混乱を大きく減らせます。
まとめ
「相続まで親名義で保有する」方法は、
- 贈与税や不動産取得税を避けられる
- 相続税の特例が使える
- 相続後の売却で3,000万円控除を受けられる場合がある
といった 税務上のメリット が大きい一方で、
- 管理コストや手間がかかる
- 相続後に家族間で揉める可能性がある
という 実務上のデメリット があります。
どちらを重視するかは家庭の事情によりますが、「とりあえず親名義のままにしておく」と決めた場合でも、空き家管理と家族間の合意形成を忘れないことが大切です。
次回(第4回)は、3つの選択肢を比較したうえで「判断の軸」と家族の話し合い方について整理します。
📖 参考:
「実家が空き家になったら… 売却して現金化?相続まで親名義?」日本経済新聞(2025年9月1日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
