実家が空き家になったらどうする?(第2回)― 生前に相続人へ名義を移すメリットとデメリット ―

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親が介護施設に入居して実家が空き家になったとき、選択肢の一つに「親の生前に相続人へ名義を移す」方法があります。
贈与や親子間売買によって所有権を移すことで、将来の相続を簡略化できると考える人も少なくありません。

しかし、この方法には税務面で大きな落とし穴もあります。今回は「生前名義変更」のメリット・デメリットを整理してみましょう。


生前名義変更の方法

名義を移す手段としては主に2つあります。

  1. 贈与
    親が子どもに不動産を無償で渡す方法。贈与税の対象になります。
  2. 親子間売買
    実際に代金を支払って親から子に購入する方法。市場価格より著しく安い場合は「低額譲渡」とされ、差額分が贈与とみなされるリスクがあります。

いずれも相続ではなく「生前の所有権移転」にあたるため、税務上の扱いが異なります。


メリット

1. 相続手続きがシンプルになる

親の死後に相続登記をする必要がなく、手続きが大幅に簡略化されます。
特に相続人が複数いる場合、生前に名義をまとめておけば「誰がどう管理するか」で揉めにくくなります。

2. 早めに活用方針を決められる

子ども世代が名義を取得することで、売却・賃貸・リフォームなどを主体的に判断できます。
「空き家をどうするか」で放置されるリスクを減らせます。


デメリット(ここが重要)

1. 相続税の特例が使えない

相続の場合は、土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」が使えることがあります。
しかし、生前贈与や親子間売買ではこの制度は適用できません。結果的に相続税の節税メリットを失うことになります。

2. 登録免許税・不動産取得税がかかる

  • 登録免許税(贈与:固定資産税評価額の2%)
  • 不動産取得税(評価額の3%)

これらは相続時には非課税ですが、贈与や売買の場合は必ず負担する必要があります。

3. 贈与税の負担が重い

贈与には基礎控除(年間110万円)を超えると高率の贈与税がかかります。
「相続時精算課税制度」を利用すれば2,500万円まで非課税枠がありますが、一度選択すると一生「暦年贈与の基礎控除」が使えなくなるため注意が必要です。

4. 「持ち戻し」のリスク

贈与から7年以内に親が亡くなった場合、その不動産は相続財産に持ち戻され、相続税の対象に含まれます。
「節税になる」と思って早めに名義を移しても、かえって不利になることがあるのです。


ケーススタディ

例えば、時価3,000万円の実家を贈与で子どもに移した場合:

  • 贈与税(控除後課税)が数百万円かかる可能性あり
  • 登録免許税(評価額2%)=60万円
  • 不動産取得税(評価額3%)=90万円

一方で、相続で取得した場合にはこれらの税金は原則かかりません。さらに小規模宅地等の特例で評価が大幅に減額される可能性もあります。


まとめ

生前に名義を移すことは「相続を簡単にしたい」「早く活用したい」という点ではメリットがあります。
しかし、税務面ではデメリットが大きく、結果的に損になるケースが多いのが実情です。

特に相続税対策を目的にするのであれば、安易な贈与は避けるべきでしょう。
専門家と相談しながら、「本当に今名義を移す必要があるのか」を慎重に判断することが欠かせません。

次回(第3回)は、親が亡くなるまで名義を変えずに持ち続ける場合のメリットとデメリットを解説します。


📖 参考
「実家が空き家になったら… 売却して現金化?相続まで親名義?」日本経済新聞(2025年9月1日付)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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