■「引退」ではなく「再稼働」という選択
かつて定年とは、「働くことの終わり」でした。
しかし、いまの60代・70代は違います。
健康寿命が延び、年金受給も繰り下げ可能になったいま、
定年=キャリアの節目であって、終点ではないのです。
再雇用・副業・フリーランス・出向起業――。
選択肢はかつてないほど広がりました。
そして、その延長線上にあるのが、「共創型キャリア」です。
会社に戻るのでもなく、完全独立するのでもなく、
企業と社会の間で自分の経験を活かす働き方。
この形が、定年後キャリアの新しいスタンダードになりつつあります。
■出向起業・副業経験が「定年後の武器」になる
若いころの出世競争や昇進スピードではなく、
“どんな経験を積んできたか”が定年後の価値を決めます。
出向起業や副業を経験した人は、
- 経営感覚(数字を見る力)
- 顧客との直接的な接点
- プロジェクトをまとめるリーダーシップ
を実務として身につけています。
これらはシニア期のキャリアで大きな強みになります。
「会社員としてのスキル」ではなく、
「社会で通用するスキル」に変わっているか――。
それが、再雇用や顧問契約、あるいは地域での仕事づくりにおいて最も重要な資産になります。
■60歳からの“キャリアの出口戦略”を3タイプで考える
定年後キャリアは、もはや一様ではありません。
以下の3タイプに整理すると、自分に合う方向が見えてきます。
| タイプ | 働き方 | 特徴 |
|---|---|---|
| ① 継続型 | 再雇用・顧問・専門職契約 | 組織に残り知見を伝える。安定と社会性の両立。 |
| ② 自立型 | フリーランス・副業・出向起業 | 自分の経験を事業化・サービス化。自由度が高い。 |
| ③ 貢献型 | NPO・教育・地域活動・公的委員 | 社会や地域へ“恩送り”。お金より使命感重視。 |
リスキリングで学び直し、副業で試し、出向起業で挑戦した経験は、
このうち②・③を選ぶ上で極めて有効です。
特に、「好きなこと×得意なこと×社会の課題」が重なる領域を探すのがポイントです。
■企業にとっても「シニア人材の共創」が価値になる
出向起業や副業を経験した人材は、
定年後も“社外パートナー”として企業に関われる存在になります。
- 若手の育成・メンター
- 新規事業の外部アドバイザー
- 地域連携・産学官プロジェクトのコーディネーター
企業にとっては、定年で切れる関係ではなく、
“社外に広がる人的資本ネットワーク”としてつながり続ける。
こうした「共創型シニア人材」をどう活かすかが、
今後の人事戦略の重要テーマになるでしょう。
■FP・税理士の視点:定年後こそ「複線型キャッシュフロー」を
シニア期のライフプランでは、
「収入が減る」ことよりも、「収入源が一つしかない」ことがリスクになります。
そのため、次の3本柱を意識した複線型キャッシュフロー設計が不可欠です。
| 収入源 | 内容 | 税区分 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 公的年金 | 老齢基礎・老齢厚生 | 雑所得 | 受給開始時期を戦略的に選ぶ(繰下げで最大142%) |
| 労働収入 | 再雇用・副業・顧問報酬 | 給与・事業 | 所得税・社会保険の負担を見える化 |
| 運用・事業収入 | NISA・不動産・小規模事業 | 配当・事業 | 定期的に現金化できる資産を確保 |
特に副業・顧問契約では、源泉徴収や社会保険の扱いが異なります。
税理士・FPは、単なる節税ではなく、「働きながら安心して受け取る設計」を支援すべき時代です。
■「人生後半のキャリア」は“社会への恩返し”に変わる
キャリアの後半では、報酬よりも「社会とのつながり」がモチベーションになります。
その意味で、出向起業や副業で培ったスキルや経験は、
- 教育(次世代への指導)
- 地域(産業や商店街の支援)
- 公益(自治体やNPOでの活動)
といった場面で“生きた知恵”として活用できます。
つまり、定年後キャリアとは、
「仕事を続けること」ではなく、
「社会に還元しながら働き続けること」。
それが、人生100年時代の「共創経営」の最終形です。
■まとめ:「会社の後に社会が待っている」
出向起業や副業は、若いうちの挑戦だけでなく、
定年後の“社会との接点づくり”にもつながっています。
会社を離れても、社会の中で役割を持ち、
働くことを通じて人とつながり、地域を支える。
それが、これからの“共創経営 × 定年後キャリア”の姿です。
会社の後には、社会が待っている。
その社会で活躍するために――
今から自分のキャリアを「複線化」しておくことが、何よりの備えになるのです。
出典:2025年10月6日 日本経済新聞 朝刊
「『出向起業』で事業創出 富士通・NTTドコモなど制度整備進む」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

