――「人生100年時代」の資産活用入門(第5回・最終回)
これまで4回にわたって、退職後の資産運用について「リスクを下げる重要性」「3つの視点」「債券やバランス型投信の活用」「投資対象を変えない選択肢」などを紹介してきました。
最終回となる今回は、シリーズの総まとめとして「安心して退職後を過ごすための実践的な資産運用の考え方」を整理します。
1. 退職後は「資産寿命」を意識する
現役時代の運用の目的は「資産を増やす」ことでした。これに対して退職後は「資産を減らさずに長持ちさせる」ことが目的になります。
そのために大切なのが 「資産寿命」 です。
- 100歳まで生きる可能性を前提に計画を立てる
- 資産をどのペースで取り崩せばよいかをシミュレーションする
- インフレや医療費増加といった想定外の支出も考慮に入れる
資産寿命を意識することで、「使い切るまでに足りるのか」という不安が小さくなり、安心して生活できます。
2. リスクを抑えながら資産を守る
リスクを下げるためのアプローチは人それぞれですが、共通する考え方は「退職後は大きな損失を避ける」ことです。
基本的な方法
- 生活費3年分を現金・預金で確保
これがあると、市場が荒れても生活に支障が出ません。 - 残りを安全資産中心に運用
個人向け国債や国内債券投信を中心にすることで、安定性を確保。 - 一定の株式比率を維持
インフレ対策として、株式を20〜30%程度残しておくのも現実的です。
3. 実践的なポートフォリオ例
総資産が4,000万円のケースを想定してみましょう。
ケースA:安定重視型
- 現金・預金:1,200万円(生活費3年分+予備費)
- 個人向け国債・国内債券投信:2,000万円
- バランス型投信:800万円
→ 株式比率は20%以下。値動きを抑えながら安心感を重視。
ケースB:インフレ対応型
- 現金・預金:1,000万円
- 債券:1,500万円
- バランス型投信:1,000万円
- 株式投信(海外株中心):500万円
→ 株式比率を30%程度残し、将来の物価上昇に備える。
このように、資産配分を工夫すれば「安心」と「成長」の両立が可能になります。
4. 投資対象を変えずに調整する方法もある
第4回で取り上げたように、「投資対象を変えない」という方法も有効です。
- 株式投信をそのまま持ち続け、現金比率を高める
- 新NISA移行の際に一部を現金化し、結果的にリスクを下げる
これは売買の手間を省き、心理的な安心感も得られる方法です。
ただし、リスクそのものは残るため、資産規模やリスク許容度を踏まえた判断が必要です。
5. 退職後の資産運用で大切な心構え
資産運用のテクニックだけでなく、心の持ち方も大切です。
1. 完璧を求めない
「最適なポートフォリオ」を追い求めると、かえって迷いやストレスが増えます。「おおむね安心できる水準」で十分です。
2. 定期的に見直す
退職直後に決めたポートフォリオをずっと維持する必要はありません。1〜2年に一度見直すだけでも、安心感は高まります。
3. 資産を「使う」ことを恐れない
せっかく築いた資産を「減らしてはいけない」と思うと、必要な生活の質まで落としてしまうことがあります。資産は使ってこそ価値があります。「使い切る」視点も持ちましょう。
まとめ ― 人生100年時代を安心して生きるために
退職後の資産ポートフォリオの考え方を整理すると、次のようにまとめられます。
- 資産寿命を意識し、100歳までの計画を立てる
- リスクを下げて資産を守り、安心して取り崩す
- 債券やバランス型投信を活用し、シンプルに運用する
- 投資対象を変えず、比率で調整する方法も有効
- 完璧を求めず、定期的に見直しながら「資産を活用する」
退職後の運用は「資産を増やす競争」ではありません。
自分らしい暮らしを支えるために資産をどのように使っていくか――それが一番大切な視点です。
安心感を持って日々を過ごすために、ぜひ一度、自分のポートフォリオを見直してみてください。
(参考:日本経済電子版 2025年9月14日記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
