2025年10月から、新しいタイプの支援制度が始まりました。
その名も「教育訓練休暇給付金」。
リスキリング(学び直し)のために30日以上の無給休暇を取った労働者に、賃金の5~8割が支給されるというものです。
AIの進展や働き方の多様化が進む中、「仕事を一度離れて学ぶ」という選択肢に現実味が出てきました。
■ 「学びたいけど生活が心配」――そこを支える仕組み
これまで、リスキリングの課題として大きかったのが「時間とお金」。
せっかく学びたい意欲があっても、生活費を考えると無給の休暇は取りづらい、という人が多かったのではないでしょうか。
今回の給付金は、雇用保険に5年以上加入している労働者が対象です。
条件を満たせば、最大150日分まで賃金の一部を受け取ることができます。
対象となる学びの範囲も広く、資格講座から大学・大学院、海外語学留学までOK。
しかも、厚労省指定の講座であれば「教育訓練給付金」との併用も可能です。
言い換えれば、
「仕事を辞めずに、安心してキャリアを磨ける」
制度がようやく整ってきた、ということです。
■ 企業の協力がなければ始まらない
とはいえ、利用のハードルはまだ高めです。
給付を受けるには、会社が「教育訓練休暇制度」を就業規則に明記していることが前提になります。
ところが、厚労省の調査によると、こうした制度を導入している企業はまだ7.5%。
「導入予定なし」と答えた企業が8割を超えるという現実があります。
理由として多いのは、
- 「代替要員の確保が難しい」
- 「コスト負担が生じる」
- 「メリットを感じない」
といった声。
つまり、企業が“送り出す側の覚悟”を持てるかがカギになります。
■ 「人的資本経営」への流れと中小企業の壁
投資家が注目する「人的資本経営」という言葉を耳にする機会も増えました。
社員の成長を企業価値として見える化しようという動きですが、現時点で実践できているのは一部の大手企業が中心です。
中小企業では、
「せっかく育てても辞めてしまうかもしれない」
という不安も根強く、教育投資に慎重な姿勢が続いています。
ただ、早稲田大学の水町教授はこう指摘します。
「リスキリング休暇を導入しないと、人材獲得競争で不利になる可能性がある。」
採用難が続くなか、“学べる会社”が選ばれる時代がもう来ています。
■ 海外では「社会で学びを支える」
フランスでは、企業などが拠出する保険料を原資に、個人が自分で学びのテーマを選べる制度があります。
「社会全体で労働者の学びを支える」考え方が根付いているのです。
今回の日本の給付金制度も、
「企業まかせ」から「社会全体で支える」
方向へと舵を切る第一歩といえるでしょう。
■ 企業にも“リターン”がある
ある弁護士は次のように言います。
「リスキリングは離職リスクだけでなく、生産性の向上や社内人材の高度化にもつながる。」
学び直しは、従業員個人だけでなく、組織の競争力強化にもつながります。
スキルが正しく評価される仕組みを整えれば、離職防止にも効果的です。
■ 「学び直し休暇」はこれからのキャリアの当たり前に
AIが仕事を変え、人手不足が深刻化する中、学び直しは“ぜいたく”ではなく“必須”になりつつあります。
そして、それを支える制度がようやく形になってきました。
人生100年時代、キャリアの途中で立ち止まり、学び直すタイミングを持てるかどうか。
それが、将来の働き方や生き方の選択肢を大きく広げることになるでしょう。
📌 出典:2025年10月6日 日本経済新聞朝刊「学び直しの休暇 広がるか」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

