外国人労働者や留学生の増加により、日本社会の構成は大きく変化しています。
製造業や介護、飲食など、労働力として不可欠な存在である一方、社会保障制度との関わり方には依然として課題が多く残されています。
特に、国民健康保険や年金制度など「負担と給付」の仕組みは、日本人を前提として設計されてきたため、外国人の実態と制度の間にギャップが生じています。
このテーマは、単なる行政課題ではなく、「共生社会」をどう築くかという日本社会全体の問いでもあります。
外国人の増加と社会保障制度のズレ
法務省によると、在留外国人は2025年時点で約330万人。10年前と比べて約1.5倍に増加しました。
技能実習制度や特定技能制度を通じて、就労目的の滞在が広がるなか、短期雇用や転職・帰国を繰り返す人も多く、社会保険の継続加入が難しいケースが目立ちます。
健康保険や年金は「継続加入・継続負担」を前提に設計されているため、
在留期間や就業形態の不安定な人にとっては、納めても受け取れない・恩恵を感じにくい構造になりがちです。
こうした構造が、制度への理解不足や不信感を生み、結果的に未納や未加入を招いている側面もあります。
「負担感」と「支援不足」のはざまで
一方で、SNSや一部の世論では「外国人が社会保障にただ乗りしている」といった言説も見られます。
しかし、厚生労働省の統計によれば、外国人の医療費支出は全体の約1.4%にすぎず、実際には「制度を利用していない層」が大多数です。
むしろ問題なのは、生活困窮や病気の際に制度を十分に活用できず、結果として社会から孤立してしまうケースです。
現場で支援にあたるNPOなどからは、
「言語の壁や制度理解の不足で、受診や申請をあきらめる人が多い」という声が上がります。
支援体制が不十分なままでは、社会的な排除が進み、結果的に医療費や福祉費の増加につながるおそれもあります。
政府の対応と国の責任
2024年7月、内閣官房に「外国人政策の司令塔」となる事務局が設置されました。
これまで分散していた厚労省・法務省・地方自治体の対応を統合し、
就労・教育・医療・社会保障などを一体的に支援する仕組みづくりを進める方針です。
海外では、オーストラリアが「定住フレームワーク」を通じて、
医療・雇用・教育の情報を包括的に提供しています。
韓国も外国人労働者支援センターを全国に配置し、社会保険や生活支援を一元化しています。
これらの事例は、「外国人を受け入れること=制度設計を共生型に変えること」であるという点を示しています。
求められる「共生型社会保障」
今後の日本で重要なのは、「徴収」だけでなく「理解促進と支援」の両輪をそろえることです。
たとえば、国民健康保険料の多言語説明や、マイナンバーを活用した在留情報との連携、
企業や学校を通じた社会保障教育など、制度の入り口を広げる工夫が欠かせません。
さらに、外国人住民を「受益者」ではなく「社会の構成員」として捉え、
負担と給付のバランスを共に考える仕組みが必要です。
社会保障の維持には、誰もが制度の一部として関わる意識が求められます。
結論
外国人政策と社会保障の課題は、国保未納という表面的な問題の奥にある「制度と現実のズレ」を映し出しています。
公平性と包摂性を両立させるためには、徴収強化よりもまず「制度理解」と「支援体制」の拡充が鍵となります。
人口減少社会のなかで外国人が共に暮らし、働き、支え合うための社会保障。
それは、日本の制度を“守る”ことではなく、“進化させる”ことでもあるのです。
出典
- 日本経済新聞「国保滞納、悩める自治体」(2025年11月2日)
- 厚生労働省「社会保障・人口問題基本統計」
- 内閣官房「外国人政策推進の方向性」(2024年7月)
- オーストラリア政府 “Settlement Framework” 政策資料
- 韓国法務部「外国人労働者支援センター」年次報告書
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
