ここ数年、東京都内で特に目立って増えている外国人がいます。それが ネパール人 です。
東京都の調査によると、2024年7月時点で都内のネパール人の人口は 5万8,185人。これはわずか3年前の 2.2倍 にあたります。増加のペースは中国人やベトナム人を上回り、いまや中国・韓国に次ぐ「第3の外国人コミュニティ」に躍り出ました。
なぜこれほど急速に増えたのでしょうか。背景には、日本の人手不足があります。飲食業や介護といった分野で働く若い人材として、ネパールから多くの人が来日しているのです。留学生として来て、そのまま就労につながるケースも少なくありません。
江戸川区に広がる新しい学校
ネパール人の増加が特に目立つのが 江戸川区 です。2021年には「ヒマラヤンインターナショナルアカデミー」というネパール人向けの学校が開校し、現在では約200人の児童・生徒が通っています。
学校があるということは、それだけ「子育て世代のネパール人家族」が地域に根付いている証拠です。しかし、地域にとっては新しい変化であり、戸惑いの声も出ています。
地域住民の苦情と違和感
学校開校から間もない2024年春、地域にはこんな苦情が寄せられました。
- 「登校中の子どもたちが道路いっぱいに広がって歩いていて危ない」
- 「ゴミの出し方が守られていない」
- 「集合住宅で夜遅くまで騒がしい声が聞こえる」
どれも小さな生活ルールやマナーに関するものです。
ただ、こうした「日常の違和感」が積み重なると、「外国人が増えて暮らしにくくなった」という印象に変わり、地域全体の不満に発展してしまうことがあります。
SNSでも、江戸川区に関してはこんな投稿が見られました。
- 「最近、小岩駅周辺はネパール料理店ばかりになっている」
- 「街の雰囲気が一気に変わってしまった」
- 「日本人が肩身を狭くしているように感じる」
これらは必ずしも客観的な事実ではなく、感覚的な「変わりすぎた」という不安の表れです。
行政と学校の対応
江戸川区も、この状況に手をこまねいてはいません。2024年9月には、ヒマラヤンインターナショナルアカデミーの子どもたちを対象に、 交通ルールや生活マナーを学ぶセミナー を開催しました。
さらに学校側も独自に日本のマナーを教える講座を開き、保護者にも参加してもらっています。
JR小岩駅周辺では、地域のゴミ拾いイベントに同校の生徒や教員が約30人参加しました。街の清掃活動に一緒に取り組む姿は、地域住民にとっても「ただの外から来た人たち」ではなく「共に街をつくる仲間」だと感じられるきっかけになったはずです。
校長のメハタ・カル・シン氏はこう語っています。
「私もネパールの家の近所で、外国人がいきなり増えたら不安になると思う。だからこそ地域とのコミュニケーションが大事だと考えている」
外国人自身も、地域の不安を理解し、歩み寄ろうとしているのです。
「摩擦」と「交流」は表裏一体
地域に急激に外国人が増えると、どうしても摩擦が生まれます。
言葉の壁、生活習慣の違い、そして文化的なギャップ。
しかし、それを放置すれば不満は増幅し、誤解や偏見を生みます。一方で、積極的に交流の場を設ければ、理解が進み、協力関係に変わっていきます。
江戸川区で始まっている取り組みは、まさにその「表裏一体の関係」を示しています。摩擦を恐れるのではなく、交流を通じて課題を解消していく。その積み重ねが、多文化共生の第一歩になるのです。
ネパール人増加がもたらす可能性
ネパール人コミュニティの広がりは、単なる「人口増」ではありません。街に新しい文化が加わり、飲食や教育の場に多様性をもたらしています。小岩駅周辺ではネパール料理店が増え、地域住民がエスニック料理を気軽に楽しめるようになったというプラス面もあります。
また、介護や飲食といった人手不足の現場では、ネパール人労働者の存在が不可欠になりつつあります。これは東京全体の経済や暮らしを支える力となっているのです。
第3回のまとめ
- ネパール人の人口は3年間で2.2倍に増え、5万8千人超に
- 江戸川区にはネパール人向け学校が開校し、家族ぐるみの定住が進んでいる
- 登校マナーやゴミ出しなど、生活上の摩擦から地域住民の苦情が発生
- 行政や学校は交通ルール講座や清掃活動などを通じて交流を促進
- 摩擦と交流は表裏一体であり、歩み寄りが共生への道を拓く
おわりに
急増するネパール人コミュニティは、東京が直面する「外国人との共生」という課題を象徴しています。
確かに生活習慣の違いから摩擦は避けられません。しかし、それをどう乗り越えるかが地域の未来を左右します。
次回(第4回)は、江戸川区西葛西に根付いた インド人コミュニティ を取り上げます。20年以上の時間をかけて築かれてきた「成功事例」から、共生のヒントを探ります。
📌 参考:
「東京一極集中の実相 <3> 人口増9万人、8割外国人」日本経済新聞(2025年10月2日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
