外国人と年金制度 ― 日本で働く人すべてに“保障”を届けるために

FP

外国人労働者が日本経済を支える存在となって久しい一方で、「年金制度との関係」は依然として理解が難しい分野です。
短期間で帰国する人も多く、「保険料を払っても戻らない」「制度が複雑でわからない」といった声が現場から聞かれます。
年金制度は本来、老後の生活を支える「社会の基盤」であるはずですが、国籍や在留期間によってその機能が十分に届いていない現状があります。
本稿では、外国人と年金制度の関係を整理し、共生社会の視点から今後の課題を考えます。


外国人の年金加入義務 ― 日本で働けば原則加入

日本の年金制度は、国籍を問わず「国内で働く人すべて」が加入対象です。
自営業者や学生などは国民年金、企業で働く人は厚生年金に加入するのが原則であり、外国人労働者も例外ではありません。

しかし、実際には次のような事情で加入が漏れるケースが見られます。

  • 雇用主が社会保険の手続きを怠っている
  • 留学生や技能実習生が制度を理解していない
  • 在留期間が短く、年金の将来受給資格を得られない

こうした背景のもと、「払うだけ払っても戻らない」との不公平感が生じています。


「脱退一時金」制度とその限界

外国人が帰国する際に、一定条件を満たすと脱退一時金を受け取れる制度があります。
これは、6カ月以上保険料を納めたうえで日本を離れ、年金を受け取らずに帰国した人に対し、納付期間に応じて一時金を支給する仕組みです。

ただし、この制度にはいくつかの限界があります。

  • 支給額は最大でも36カ月分(約3年分)まで
  • 年金としての長期的保障は得られない
  • 一時金受給後に再来日すると、その期間は通算できない

つまり、短期的な救済にはなるが、老後保障にはつながらないという構造的な問題を抱えています。


二重加入と社会保障協定

一方で、母国の年金制度にも加入義務がある国の場合、
「日本と母国の両方で年金保険料を支払う」二重負担の問題が発生します。

この問題に対応するため、日本は現在、アメリカや韓国、ドイツなど24か国と社会保障協定を締結しています。
協定により、両国間で年金加入期間を通算できるようになり、
「日本で10年未満しか加入していないため受給できない」というケースを減らす効果が生まれています。

しかし、アジア諸国を中心に協定未締結国も多く、特に技能実習生の出身国(ベトナム、インドネシア、フィリピンなど)との制度整備は今後の課題です。


現場の課題 ― 情報不足と手続きの複雑さ

現場レベルでは、制度そのものよりも「情報へのアクセス」が最大の障壁です。
日本年金機構のパンフレットやウェブサイトは多言語化が進みつつありますが、
実際に外国人労働者が内容を理解し、申請手続きを行うのは容易ではありません。

また、派遣・請負・非正規雇用など、多様な就労形態の中で「誰が加入手続きを行うのか」が不明確なケースも多く、
雇用主側の知識不足や事務負担の軽視が制度漏れの一因となっています。

こうした課題に対しては、企業・行政・支援団体の三者連携による「社会保障教育」の充実が不可欠です。


共生社会の年金制度へ

日本の年金制度は、今後さらに多様な就労者を受け入れる時代に入ります。
その中で問われるのは、「年金制度を国籍の壁を超えて共有できるか」という視点です。

在留外国人が長期的に日本社会を支える存在となる以上、
制度も“国内限定”から“共生社会型”へと転換する必要があります。
具体的には、次のような方向性が求められます。

  • 社会保障協定のさらなる拡大
  • 外国人向け年金情報のデジタル一元化(多言語マイページ化)
  • 脱退一時金の見直しと通算制度の拡充
  • 中小企業向け「社会保険加入支援制度」の強化

年金制度を「誰のための制度か」という視点で再設計することが、共生社会の基盤を築く鍵となります。


結論

外国人と年金制度の問題は、単なる「加入漏れ」ではなく、制度が想定してきた社会構造の変化そのものを映し出しています。
短期滞在・転職・多様な就労形態が当たり前になる時代に、年金を“支え合いの仕組み”としてどう再構築するか。
その答えを探ることが、共生社会を実現する上で欠かせない一歩です。

国籍を超えて「働くすべての人」が老後の安心を共有できる社会保障。
それこそが、これからの日本が目指すべき共生のかたちではないでしょうか。


出典

  • 厚生労働省「社会保障協定の概要」(2025年版)
  • 日本年金機構「脱退一時金制度のご案内」
  • 法務省「在留外国人統計(2025年4月)」
  • OECD “Pensions at a Glance 2024”
  • 日本経済新聞「外国人と年金制度の見直し議論」(2024年12月)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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