士業を取り巻く環境は大きく変化しています。SNSやインターネット広告が一般化し、依頼者は「専門家をオンラインで選ぶ」時代になりました。しかしその一方で、誇張表現や誤解を生む広告によって士業そのものへの不信感が生まれる場面も増えています。
シリーズ第4回では、士業広告をめぐる業界全体の課題と、今後求められる方向性について整理します。
1 士業の広告規制は「時代の変化」とのギャップに直面している
士業広告の規制は、各士業法や会則によって定められています。しかし、これらの規制はSNSや動画広告が登場する以前に作られたものが多く、現実の広告環境との間にズレが生じています。
特に以下の点が実務上の課題として浮上しています。
- SNS広告は従来の前提にないスピードと拡散性を持つ
- 個人アカウントと事務所アカウントの境界が曖昧
- 画像・動画による表現で規制の適用範囲が分かれやすい
- インフルエンサー型の士業が増え、広告と情報発信の線引きが複雑化
現行ルールでは対応しきれない部分が増えており、業界全体での見直しが求められています。
2 消費者の目が厳しくなっている
7月のアンケートでは「うさんくさい」と感じた人が84人にのぼり、士業広告に対する一般消費者の視線が厳しさを増していることが示されました。
この背景には次の事情があります。
- 士業の専門性が高く、理解が難しい
- インターネットの広告慣れにより、誇張表現に敏感
- 個々の事務所情報が比較されやすく、違和感が目立ちやすい
- “成果保証”のような広告が増え、信頼性への疑念が高まっている
消費者側の情報リテラシーが向上するほど、士業側にはより誠実で透明性の高い広告が求められます。
3 「広告はブランディングの一部」という視点が欠かせない
士業広告の本質は“集客”ではありません。長期的に見れば、広告や情報発信は「専門家としてのブランド」を育てる行為にほかなりません。
そのため、以下の要素が将来的により重視されます。
- 誇張よりも 正確性・誠実性 を優先する
- 短期的な反応より 長期的な信頼の蓄積 を重視する
- SNSのインフルエンスより 専門家としての品位 を軸にする
- 依頼者との関係性を ファン化・コミュニティ化 へ育てる
単に案件獲得の手段として広告を位置づけるのではなく、「事務所の思想や姿勢を示すもの」として捉える視点が不可欠です。
4 業界全体が目指すべき方向性
今後、士業広告が向かうべき方向性として、以下の4点がポイントになります。
① ルールの明確化とガイドライン整備
SNSや動画広告に対応した新たなガイドライン整備が求められます。
士推協が開催するシンポジウムも、この議論を深める場として注目されています。
② 「誤解防止」を中心に据えた表現づくり
広告は依頼者との最初の接点です。誤解を生む表現を避け、正確で誠実な言葉を用いることが信頼形成の前提になります。
③ 専門家としての倫理観の共有
士業には公共性があります。情報発信が増えた今こそ、士業全体での倫理観やスタンスが問われます。
④ 若手・中小事務所の発信支援
広告規制を適切に理解しつつ発信できる環境を整えなければ、情報発信の格差が生まれる可能性があります。
専門家同士での研修や情報共有の体制づくりも重要になります。
5 士業広告の未来を形づくるのは「一人ひとりの発信」
結局のところ、広告の質を左右するのは各士業の姿勢です。
制度やルールが整備されても、誠実な発信、根拠ある情報、依頼者への敬意がなければ、業界の信頼向上にはつながりません。
「品位ある広告」が広がることで、士業全体のイメージは確実に変わります。
その意味で、士業一人ひとりの広告が業界の未来を形づくると言っても過言ではありません。
結論
士業広告を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。SNSやインターネット広告の普及により、広告の境界線は曖昧になり、誤解や過剰表現のリスクが高まっています。
今後求められるのは、単なる規制強化ではなく「業界全体としての信頼構築」です。
誠実な広告、透明性のある情報発信、そして依頼者への敬意。この3つを軸にした広告文化が広がれば、士業の価値はより正しく伝わるようになります。
シリーズ第5回では、具体的な「ケーススタディと適正広告への改善例」を取り上げ、実務で使える改善ポイントを紹介します。
出典
・士業適正広告推進協議会(開催案内)
・日本経済新聞(2025年11月24日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
