生成AIの進化は、コンサル業界だけでなく、士業や専門職と呼ばれてきた分野にも静かに、しかし確実に影響を及ぼし始めています。
税理士、会計士、弁護士、司法書士、社労士、FPといった職種は、長らく「専門知識そのもの」が価値の中核にあると考えられてきました。
しかし、AIが高速で法令・判例・制度・数値を処理できる時代において、専門職の価値はどこに置かれるのでしょうか。
士業・専門職は今、役割の再定義を迫られています。
AIが代替しやすい士業業務とは何か
士業業務を分解すると、次のような要素に整理できます。
・制度や法律の調査
・定型的な計算・書類作成
・過去事例や解釈の整理
・制度選択肢の提示
・意思決定支援と実行支援
このうち、AIが急速に代替しているのは、前半の「調べる」「まとめる」「定型処理する」領域です。
税額計算、契約書のドラフト、制度の要件整理、FAQ対応などは、すでにAIの得意分野になりつつあります。
これは「士業が不要になる」という話ではありません。
「士業の仕事の中身が変わる」という現実です。
専門知識の希少性はどう変わるのか
かつては、
「その制度を知っている人」
「計算できる人」
「調べられる人」
であること自体が、専門職としての価値を生んでいました。
しかし現在は、制度情報そのものの入手コストがほぼゼロに近づいています。
知識は希少資源ではなくなり、誰でもアクセス可能な公共財に近い存在へと変化しています。
その結果、
「知っていること」
ではなく、
「どう使うか」
「どの選択肢を選ぶべきか」
が価値の中心に移っています。
士業に残る判断と責任の領域
AIが高度化しても、次の領域は人に残り続けます。
・複数制度の組み合わせ判断
・リスクを含めた説明責任
・顧客の価値観や事情を踏まえた助言
・将来不確実性を前提とした意思決定支援
例えば税務では、節税の可否だけでなく、
・税務調査リスク
・社会保険や補助金との関係
・中長期の事業承継や資産形成
といった文脈を含めた判断が求められます。
この「文脈を読む力」と「責任を引き受ける力」は、現時点でAIが代替できない領域です。
士業は「作業者」から「設計者」へ
AI時代の士業は、
書類を作る人
計算をする人
から、
制度をどう使うかを設計する人
へと役割が移行していきます。
重要になるのは、
・制度を横断的に理解する力
・顧客の人生・事業の全体像を捉える視点
・選択の結果に責任を持つ覚悟
です。
AIは優秀な補助者になりますが、最終判断を下し、その結果を引き受ける主体にはなりません。
士業は「判断の最終責任者」という立場を、より明確に担う存在になっていきます。
専門職間の境界はどう変わるのか
もう一つの変化は、士業・専門職の境界が揺らぐことです。
AIが横断的に制度を整理できるようになると、
「これは税理士の領域」
「これは社労士の領域」
といった分業の意味が薄れていきます。
今後は、
・どこまで俯瞰して設計できるか
・どこまで顧客の課題に伴走できるか
が評価軸になります。
単一制度の専門家よりも、複数分野をつなげられる専門家が求められる時代に入っています。
結論
士業・専門職は、AIによって仕事を奪われる存在ではありません。
しかし、従来と同じ役割にとどまれば、価値が急速に薄れることは避けられません。
これからの専門職に求められるのは、
知識量ではなく判断力
処理速度ではなく設計力
肩書ではなく責任
です。
AI時代に生き残る士業とは、
「正解を教える人」ではなく、
「どの選択をするのかを一緒に考え、責任を引き受ける人」
だと言えるでしょう。
参考
・日本経済新聞
「AI進化、コンサルに荒波」
・Bloomberg
・OpenAI 公開資料
・IBM コンサルティング部門コメント
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
