銀行預金などの利子にかかる「利子割」が、ネット銀行の本店が集中する東京都に偏って納付されている問題をきっかけに、政府・与党は偏在是正の仕組みを検討しています。
しかし、この議論の本質は「400億円規模の小さな税目」ではなく、
地方税体系を現代社会に合わせて再設計する必要性 にあります。
本稿では、シリーズ全9回で扱った内容を横断的に振り返り、「利子割改革が示す地方税の未来」を簡潔に整理します。
1 利子割偏在は、制度の“ひずみ”の象徴
利子割は本来、居住地に帰属すべき地方税です。しかし現行制度は、口座のある銀行の所在地で課税される仕組みが続いています。
- ネット銀行が本店を都内に置く
- 全国の預金利子が東京に“自動的に”集まる
という構造が生まれ、東京都の利子税収シェアは40%超に達しています。
これは、地方税の原則である 居住地主義 に反する典型的な制度のひずみです。
2 居住地主義は地方税の基本原則
地方税は、住民が行政サービスを受ける自治体に税源を帰属させるべきという考え方が基本です。
- 住民税
- 固定資産税
- 配当割や株式譲渡所得割
これらはすべて「居住地」が基準です。
利子割のみ例外として“本店所在地課税”が残っているため、制度の整合性を欠いています。
3 地方交付税では偏在を補いきれない
「交付税があるから利子割の偏在は問題ない」という意見がありますが、実際には次の理由で十分に補正できません。
- 東京都は交付税の対象外またはごく少額
- 利子割のような構造的偏在は交付税の仕組みでは調整しにくい
- 医療・介護など地方の財政需要が増大している
利子割の偏在是正は、地方交付税との“役割の再整理”にもつながります。
4 税源移譲の歴史から見える「改革の必然性」
2000年代には、国の所得税を地方の住民税へ移す“大規模税源移譲”が行われました。
- 国依存からの脱却
- 地方の自主財源拡大
- 居住地主義の徹底
今回の利子割改革も、この流れの延長線上にあります。
金融所得の課税体系を「居住地」へ統一する意味がより強まっています。
5 超高齢化で地方税の重要性はさらに増大
地方はこれからも次の財政需要に直面します。
- 医療費の増加
- 介護費用の拡大
- 子育て支援の強化
- 老朽インフラ更新
- 防災・減災投資の拡大
人口減少が進む中で、地方の財源確保はこれまで以上に重要です。
利子割改革は、地方自治体の財政安定化に直接寄与します。
6 未来型の地方税体系に向けた出発点
利子割の偏在是正は、未来型の地方税体系を構築する出発点にすぎません。
考えられる方向性は次の通りです。
(1)デジタル課税の確立
マイナンバーと金融データを活用し、所得情報を自動的に居住地へ配分する仕組みが可能になります。
(2)金融所得課税の一体化
利子・配当・株式譲渡などを統合し、地方税としての整合性を高める方向へ進みます。
(3)地域経済循環を反映した税制
人口減少社会では、税源を“循環”させる発想が重要になります。
地域内経済のデータを税源算定に反映させる議論が進む可能性があります。
(4)行政DXによる税務の再設計
AIによる課税推計の自動化など、税務実務そのものが変革されます。
結論
利子割の偏在是正は、小さな税目の調整ではなく、地方税体系の本質である
- 地域間の公平性
- 居住地主義の原則
- デジタル社会への適合
- 地方自治体の持続可能性
を再構築するための象徴的な改革です。
ネット銀行の時代に合わせた制度のアップデートであり、地方財源を「本来の姿」に戻す取り組みでもあります。
今回の議論を入口に、金融所得課税の一体化、地域経済課税、行政DXなど、地方税の将来像を包括的に捉えていくことが求められます。
参考
・総務省「地方税制度の概要」
・地方財政白書
・日本経済新聞(利子割偏在の記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

