地方税の偏在是正はなぜ避けて通れないのか――東京一極集中と地方自治の再設計――

FP

地方税の偏在是正をめぐる議論が、再び大きな注目を集めています。2026年度税制改正大綱では、東京都に集中する地方税収をより地方へ配分する方向性が示されました。これに対し、東京都は地方自治の侵害だとして強く反発しています。

しかし、地方税の偏在は、もはや一部自治体の努力や政策姿勢の違いで説明できる問題ではありません。人口、企業、資本が東京に集中する構造そのものが生み出している制度的な歪みです。本稿では、地方税偏在是正の背景と論点を整理し、なぜ今回の是正措置が妥当と評価されているのかを考察します。

地方税偏在は「構造問題」である

地方税は、本来、各自治体が自らの行政サービスを賄うための財源です。2000年代の三位一体改革により、国から地方へ税源移譲が進められ、地方分権の基盤は一定程度整えられました。

しかし、その後の現実は、想定とは異なる方向に進みました。人口と企業活動が東京に集中し続けた結果、地方法人課税や固定資産税などが特定の自治体、とりわけ東京都に極端に集まる状況が生じています。これは東京都の政策努力の成果というより、経済構造と制度設計の帰結と見るべきものです。

税収集中が生む行政サービス格差

税収が集中すれば、行政サービスにも差が生じます。東京都では、子ども一人あたり月額5,000円の給付、水道料金の引き下げ、保育人材確保への支援など、手厚い施策が実施されています。

一方、地方自治体では、最低限の行政サービスの維持に苦慮している地域も少なくありません。税収格差が行政サービス格差へと直結し、結果として「住民サービスの地域間不公平」が拡大しています。この状況が続けば、さらなる人口流入を招き、偏在が一層固定化される悪循環に陥ります。

地方自治と「自制」の関係

東京都は、地方税の再配分は地方自治に反すると主張しています。確かに、自治体が自らの税で行政を行うことは、地方自治の理想像の一つです。

しかし、自治とは単に干渉を拒む権利ではありません。他の自治体との関係や、制度全体への影響を踏まえた自制もまた、自治の一部と考える必要があります。突出した税収を背景に独自施策を拡大し続ける姿勢は、結果として周辺自治体や地方全体との摩擦を生んでいます。

今回、神奈川・埼玉・千葉といった首都圏自治体自身が見直しを求めた点は象徴的です。首都直下地震対策など、広域で連携すべき課題を抱える中、税制を巡る対立が連携を損なうことは避けなければなりません。

応急措置と制度改革の両立が必要

今回の税制改正大綱では、地方法人課税の配分見直しや、固定資産税の分配対象化について検討を進めるとされています。これらは、当面の是正措置として一定の合理性があります。

同時に、偏在を生みにくい税体系への抜本的改革も不可欠です。具体的には、地方消費税の比重拡大や、法人税の分割基準を従業員数など実体経済に即した指標へ精緻化することが検討課題となります。偏在が避けられない税目と、地域差の小さい税目を組み合わせて設計する視点が求められます。

結論

地方税の偏在是正は、東京都に対する懲罰ではありません。人口・企業集中という構造問題に対する制度的な調整です。地方自治を守るためにも、制度全体の持続可能性を確保する視点が欠かせません。

短期的な配分見直しと、中長期的な税制改革を並行して進めることが重要です。地方税制度を、地域間の分断を深める仕組みではなく、連携を支える基盤として再設計することが、いま強く求められています。

参考

・日本経済新聞「地方税の偏在是正は妥当だ」2025年12月29日朝刊


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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