金利上昇局面を背景に、全国で預金の争奪戦が激しくなっています。特にインターネット銀行の存在感が一気に高まり、地方銀行や信用金庫の預金が都市部やネット銀行へ移動する動きが目立ってきました。地方の個人預金が細り始めるなか、地銀は越境調達やキャンペーン強化など対抗策を迫られています。本稿では、この変化が地域金融の構造にどのような影響を与えるのかを整理します。
ネット銀行が40兆円超に急拡大
2025年9月末、ネット銀行主要6社の預金残高は約40兆円に達しました。これは中国地方の全地銀を合計した規模を上回り、りそな銀行や三井住友信託銀行をも凌ぐ水準です。高金利キャンペーン、巨大なポイント経済圏との連携が成長を後押ししています。
例えば、auじぶん銀行は1カ月物定期で年9%のキャンペーンを実施し残高が5兆円を突破。PayPay銀行は利息をポイントで受け取れる仕組みを導入し、住信SBIネット銀行はドコモとの連携によって成長加速が見込まれています。
ネット銀行は店舗コストが低く、金利で攻めやすい構造を持っています。家計側もアプリ一つで高金利オファーにアクセスできるため、預金移動のハードルが下がっています。
地方銀行の預金は横ばいだが、中身が変わりつつある
地銀全体の預金残高は前年比2%増と見た目は堅調です。しかし個人預金だけを集計すると、9割中4割の銀行で減少しています。転居や相続を契機に都市部へ資金が移るケースや、ネット銀行への移管が増えているためです。
個人預金は一度口座を開けば長期間維持される傾向があり、地銀にとって最も安定した資金源です。その流出は経営面での警戒シグナルといえます。
越境調達に踏み出す地銀も登場
預金流出への危機感から、地銀の一部は地域外から積極的に預金を集め始めています。
山陰合同銀行はスマホ専用支店を立ち上げ、優遇金利を提示して全国の預金を取り込みました。さらに神奈川県の自治体公金を落札するなど、地域外資金の獲得を本格化させています。
ただし、こうした戦略を実行できる地銀は限られています。人員・システム投資が必要で、全ての地銀が追随できるわけではありません。
地域密着型の商品で守りを固める地銀もある
対抗策として、各地銀は預金者の共感を得る独自色を打ち出しています。
滋賀銀行は預金の一部を琵琶湖の環境保全に活用する商品を発売し、当初300億円だった募集枠を600億円に拡大する人気となりました。佐賀銀行は給与受取やNISA開設と連動した大型キャンペーンを打ち出しています。
金利ではネット銀行に敵わない地銀が、地域密着の価値をどう提示するかが問われています。
もっとも厳しいのは信用金庫
信用金庫の預金残高は4カ月連続で前年割れし、2025年9月末時点で約163兆円と0.1%の減少でした。営業区域が狭く越境調達が事実上難しい一方、金利競争にも踏み込みづらいため、都市部やネット銀行へ預金が流れやすい構造になっています。
金融庁の調査では、2025年3月末時点で信用金庫・信用組合の約6割で個人預金が減少しました。地銀以上に厳しい環境といえます。
地域金融の構造変化が進む可能性
ネット銀行への預金移動がこのペースで進めば、地域金融機関の役割や収益構造は大きく変わる可能性があります。
店舗重視のモデルは維持が難しくなり、地域金融はこれまで以上に融資・コンサルティング・資産運用支援など、預金以外の提供価値が求められるようになります。また、自治体や企業の資金もネット経由で動きやすくなり、地域資金の循環が弱まる懸念もあります。
地方銀行や信金が地域に資金を「つなぐ」存在として存続するには、預金という一つの軸に依存しないモデルへの転換が避けられません。
結論
ネット銀行の急成長により、地方の預金環境は大きく変化し始めています。預金総額は伸びているものの、個人預金は都市部やネット銀行へ移り、地域金融の資金基盤は揺らぎつつあります。地銀や信金が新しい役割を示し、地域と金融のつながりをどう再構築していくのかが、これからの大きな論点となります。
参考
・日本経済新聞「地方の預金、争奪戦に」(2025年12月10日)
・金融庁 統計資料(預金動向)
・各銀行決算資料および公表データ
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

