地方の産業集積と生活基盤を一体で整備する新制度とは AI・半導体時代に求められる「住める・働ける」まちづくり

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政府が2027年度にも、地方の産業集積と生活基盤を一体的に整備するための新しい支援制度を導入する方向で検討しています。
背景にあるのは、人口減少と産業空洞化が同時進行する地方の現実です。工場を誘致しても土地がない、人材がいない、生活サービスが維持できない――こうした「三重苦」を抜け出さない限り、地方に投資が向かわない状況が続いています。

今回の制度は、AIや半導体といった戦略分野の企業誘致と、子育て・介護・小売などの生活サービスの整備をセットで支援する点に特徴があります。産業と暮らしの両面から「住める・働ける地域」をつくり、持続的な雇用・投資を実現することが狙いです。

1 なぜ「産業と生活の一体整備」が必要なのか

地方では、企業の海外移転や生産縮小によって産業用地が大幅に減少しました。2001年から20年間で産業用地は4割以上も縮小し、土地確保は大きなボトルネックになっています。さらに、少子高齢化による人口流出で、働き手も生活サービスも不足する地域が増えています。

企業は立地選定の際、「本社との距離」「地価」に次いで「人材確保」を重視しています。つまり、雇用を支える生活環境が整備されていなければ、どれだけ補助金を積んでも企業は来てくれません。

今回の制度は、企業誘致を単独で行うのではなく、生活インフラを含めた地域の総合的な魅力づくりを進めるものです。

2 産業用地確保のための新たな制度

経済産業省は「産業用地整備計画の承認制度」を新設し、地域が策定した計画を国が認定する仕組みを検討しています。認定されれば、土地譲渡に伴う税負担軽減や中小企業基盤整備機構による融資優遇が受けられます。

さらに、工場立地に関する規制も見直します。

  • 工業用水の供給対象をデータセンターにも拡大
  • 工場敷地に義務付けられる緑地割合(約20%)の緩和

AIや半導体の関連産業が求めるデータセンターを誘致しやすくするための環境整備といえます。

3 生活インフラの維持・強化もセットで支援

生活面では、小売店、物流、ガソリンスタンド、保育・介護などのエッセンシャルサービスを維持するための金融支援制度が用意されます。具体的には、日本政策金融公庫の低利融資や中小機構の債務保証が検討されており、地元企業の多角化を促す狙いがあります。

たとえば、スーパーマーケットが敷地内に介護施設や託児所を併設するような取り組みが想定されています。住む人が増える→生活サービスが維持される→さらに人が呼び込める、という循環を生み出す仕組みづくりです。

4 戦略17分野の企業誘致を中心に展開

誘致対象として想定されているのは、AIや半導体など日本の成長に不可欠な「戦略17分野」に位置づけられる中堅以上の企業です。
ただし、地域の特性を活かした地場産業も対象となるため、地方が抱える産業構造を転換する機会にもなります。

企業向けの支援としては、生産性向上のための設備投資を減税対象にする制度が検討されています。具体的な対象や条件は、今後の政府・与党協議で固められる見通しです。

5 新制度の本質は「人の集積」を生み出せる地域づくり

日本総合研究所の西岡慎一主席研究員は、これまで自治体が産業誘致を行ってきたものの、「立地を起点にまちをつくり直す発想は十分でなかった」と指摘しています。

地方創生の本質は、単に工場を誘致することではなく、人が住み続けられる環境をつくることです。
働く場所があっても生活環境が整っていなければ、人は定着しません。逆に、生活の利便性が高まれば新たな人材が流入し、企業も投資しやすくなります。

今回の制度は、産業と生活をパッケージとして再整備する、日本のまちづくりの転換点といえる取り組みです。

結論

地方の人口減少と産業空洞化が同時に進むなか、企業誘致だけでは地域の魅力を十分に高めることはできません。新制度は、AI・半導体といった戦略分野の企業を軸に、産業と生活インフラを一体で整備することで、持続的な投資と雇用を生む地域づくりをめざしています。

住む人・働く人の双方にとって魅力ある地域づくりが進めば、地方の産業集積は一時的なブームではなく、長期的な成長につながっていくはずです。

参考

・日本経済新聞「戦略17分野、地方の産業集積 生活基盤と一体整備」(2025年12月10日 朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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