■ 売上アップも、創業も、まずは「よろず」に相談
「どこに相談したらいいのかわからない」――。
そんな悩みを持つ中小企業や個人事業主の“駆け込み寺”が、全国にあることをご存じでしょうか。
それが中小企業庁が設置する「よろず支援拠点」です。
金融機関、商工会、ジェトロ、自治体など複数機関を横断して支援するワンストップ相談所として、全国47都道府県に設置されています。相談は無料。2024年度の相談件数は71万件を超え、5年間で2.2倍に増加しました。
■ 鹿児島発:離島まで伴走する「熱い支援」
全国でも特に相談件数が伸びたのが鹿児島県(5年間で6.4倍)。
この背景には、離島を含む出張相談やセミナーなど、現場に出向く地道な取り組みがあります。
例えば、鹿児島市の定食店「山田食堂ととや」を運営する三喜(代表:井手上剛志さん)は、「食堂の味を守りつつ、冷凍食品で全国に届けたい」という夢を持っていました。
そこで14人のコーディネーターがチームを組み、
- 事業再構築補助金の申請支援
- インスタグラム・クラウドファンディングの運用助言
- 「冷凍定食」の商標登録支援
- 百貨店・ふるさと納税サイトへの販路紹介
と、16種類に及ぶ支援メニューを実施。
結果、冷凍カツ丼の具が高島屋の宅配サービスに採用されるなど、新たな市場を切り開きました。
■ 奈良発:観光×創業 ― 女性起業家の一歩を支える
奈良県では創業相談が全体の約3割を占め、全国平均(1割強)を大きく上回ります。
インバウンド需要の高まりを受け、観光関連での起業を目指す人が増えているのです。
その一人が、ビーガン(完全菜食)向け菓子店「ラッコラ」を開いた桐山真悠子さん。
開業準備から商談会デビューまで、拠点のアドバイスを受けながら進めました。
助言をもとに「心からの笑顔になれるお菓子を」という思いを自らの言葉で発信。
今では地元ホテルのウエルカムスイーツとして採用されるまでに成長しました。
奈良拠点の上山幸寛チーフコーディネーターは語ります。
「地方では、経営や創業を相談できる相手が身近にいない。
だからこそ、拠点が“挑戦の最初の扉”になる意義は大きい。」
■ 「伴走型支援」が生む地域の連携力
よろず支援拠点の特徴は、「単なるアドバイス」で終わらないこと。
必要な専門家を巻き込み、実行まで伴走する点にあります。
税理士、デザイナー、元経営者、知財専門家など、多様な人材がコーディネーターとして関わり、
「第2の創業」「M&A」「事業再構築」といったステージアップにも対応します。
大阪公立大学の林侑輝准教授はこう指摘します。
「挑戦を後押しする拠点の役割は大きい。
ただ、相談内容が高度化する中で、地方ほど対応力が試される。
自走を促す支援設計が今後のカギになる。」
■ 生産性支援へ ― 次のステージへ進む「よろず」
2025年度の最低賃金引き上げを受け、政府は2026年度から全国の拠点に“生産性向上専門チーム”を設ける方針を打ち出しています。
単なる経営相談から、デジタル化・AI活用・DXによる収益改善支援へ――。
「よろず」は進化を続けています。
■ まとめ ― “まず相談”からはじまる成長の物語
経営の課題に「万能薬」はありません。
でも、「誰かに話すこと」から解決が動き出すことは多いもの。
よろず支援拠点は、そんな中小企業の“はじめの一歩”を支える場所です。
創業を考えている方、新しい販路を探している方、資金繰りに悩む方。
ぜひ一度、地元の「よろず支援拠点」の扉をたたいてみてください。
次の物語は、そこから始まります。
出典・参考:
2025年10月25日 日本経済新聞「中小支援『よろず拠点』盛況」
中小企業庁「よろず支援拠点」公式サイト
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

