在職老齢年金の見直しで何が変わるのか― 減額緩和と繰り下げ受給への影響を整理する ―

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高齢期の就労が当たり前になりつつある中で、年金制度、とりわけ在職老齢年金の仕組みは分かりにくい制度の一つです。
働きながら年金を受け取るとどれくらい減らされるのか、どの収入が対象になるのか、そして繰り下げ受給を選んだ場合にどのような影響があるのか。こうした疑問は、実際に65歳前後を迎える人ほど切実になります。

2026年4月から予定されている制度改正では、この在職老齢年金の「減額の厳しさ」が大きく緩和されます。本稿では、今回の見直しの内容と、その実務的な意味を整理します。

在職老齢年金の基本構造

在職老齢年金とは、厚生年金を受給しながら働く場合に、一定以上の収入があると厚生年金の一部または全部が支給停止される仕組みです。
対象となるのは基礎年金ではなく、あくまで厚生年金の報酬比例部分です。

現在の制度では、

  • 厚生年金月額
  • 毎月の賃金(月収+直近1年の賞与の12分の1)

これらの合計が51万円(2025年度)を超えると、超過分の2分の1が厚生年金から減額されます。

ここで注意すべき点として、

  • 配当収入
  • 不動産所得
  • 厚生年金に加入しない働き方での収入

これらは原則として判定に含まれません。

2026年4月からの見直し内容

2026年4月以降、この支給停止の基準額が62万円へ引き上げられる予定です。
これにより、これまで減額されていた人の中でも、減額がなくなる、あるいは減額幅が小さくなるケースが大幅に増えます。

厚生労働省の推計では、

  • 現行制度で支給停止(減額含む)となっている約50万人のうち
  • 約20万人が全額受給可能
  • 残る約30万人も減額幅が縮小

とされています。

この見直しは、高齢者の就労意欲をそぐ制度設計になっていた点への対応という意味合いが強い改正です。

加給年金への影響

在職老齢年金の影響は、厚生年金本体だけにとどまりません。
65歳時点で年下の配偶者がいる場合に支給される加給年金も、在職老齢年金の影響を受けます。

厚生年金が全額支給停止されている場合、加給年金も支給されません。
一方で、厚生年金が1円でも支給されていれば、加給年金は満額受給できます。

基準額引き上げにより、厚生年金が一部でも支給される人が増えることで、結果的に加給年金を受給できる人も増えると見込まれます。

繰り下げ受給との関係

今回の改正で特に重要なのが、繰り下げ受給との関係です。

年金は65歳から受給開始を遅らせることで、

  • 1カ月あたり0.7%
  • 70歳までで最大42%

増額されます。この増額は終身で続きます。

ただし、在職老齢年金で減額されている部分は、繰り下げ増額の対象になりません
そのため、働きながら繰り下げをしても、実際の増額効果が小さくなるケースがありました。

基準額が引き上げられ、減額されない、あるいは減額幅が縮小されることで、

  • 繰り下げ増額の効果がそのまま反映される
  • さらに65歳以降の就労に伴う保険料納付により、報酬比例部分自体も増える

といった好影響が生まれます。

経過措置的な計算の考え方

すでに繰り下げ待機中の人については、改正前後の期間を通算して平均的な支給率を用いて増額率を計算する仕組みが採られます。
そのため、改正後のメリットは、これから65歳を迎える世代だけでなく、現在進行形で繰り下げを検討している人にも一定程度及ぶことになります。

結論

在職老齢年金の見直しは、単に年金が削られにくくなるという話にとどまりません。
加給年金の受給可否や、繰り下げ受給の増額効果、さらには65歳以降も働き続けることによる年金額の底上げなど、長期的な影響を持つ改正です。

今後は、

  • どこまで働くか
  • いつから年金を受け取るか
  • 繰り下げを選ぶかどうか

を一体で考える必要性が、これまで以上に高まります。
年金制度は複雑ですが、制度改正の方向性を踏まえて整理することで、自身にとって合理的な選択肢が見えてくるはずです。

参考

  • 日本経済新聞「年金制度こう変わる 在職老齢、減額幅小さく」(2025年12月13日朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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