在宅介護サービスの充実により、高齢者が自宅で生活を続ける期間は確実に長くなっています。
一方で、この流れは「住まい」をめぐる新たな課題を浮き彫りにしています。それが、相続と空き家の問題です。
特養待機者が減少し、在宅介護が標準的な選択肢となるなかで、自宅は単なる居住空間ではなく、「介護の拠点」であり、「将来の相続財産」でもあるという二重の性格を持つようになっています。
在宅介護と「住み続ける家」のリスク
在宅介護では、本人が自宅で生活し続けることが前提となります。
その結果、要介護状態が長期化しても自宅の処分や整理は先送りされがちです。
介護が続く間は、「まだ住んでいる家」であるため売却や賃貸は現実的ではありません。しかし、本人が亡くなった後、その家は一転して「使われない資産」になります。
介護期間が長いほど、建物は老朽化し、相続時点では修繕費用がかさむケースも少なくありません。
相続発生時に表面化する空き家問題
在宅介護を経て相続が発生すると、次のような問題が一気に表面化します。
・相続人が遠方に住んでおり、管理できない
・建物が古く、売却や賃貸が難しい
・名義が共有となり、意思決定が進まない
特に問題となるのが、相続人全員が「いずれ何とかしよう」と判断を先送りするケースです。
空き家のまま放置されると、固定資産税の負担が続くだけでなく、管理不全による近隣トラブルや行政指導の対象となる可能性も高まります。
在宅介護が相続対策を難しくする理由
在宅介護が続いている間は、本人の判断能力が徐々に低下していく場合もあります。
そうなると、不動産の売却や活用、遺言の作成といった相続対策が難しくなります。
「介護が落ち着いたら考えよう」と思っているうちに、法的な意思表示ができなくなり、結果として相続人同士の調整が必要な状態で問題が引き継がれることになります。
空き家は「相続後」ではなく「介護中」から考える
空き家対策というと、相続後の問題として語られがちですが、実際には在宅介護が始まった段階から検討すべきテーマです。
例えば、
・将来的に誰が住むのか
・売却する場合のタイミング
・賃貸や管理委託といった選択肢
を、本人が元気なうちに整理しておくことで、相続後の混乱を大きく減らすことができます。
在宅介護と資金面の影響
在宅介護では、介護サービスの自己負担や住宅改修費用が継続的に発生します。
この支出は、相続財産となる預貯金を徐々に減らしていきます。
その結果、
・現金が減り、不動産だけが残る
・相続税の納税資金が不足する
といった事態も起こり得ます。
在宅介護と相続は、時間軸の異なる問題ではなく、同時進行で考える必要があるテーマです。
家族間の合意形成が不可欠な理由
在宅介護では、家族の関与が避けられません。
介護を担う人と、将来の相続人が必ずしも一致しないことも多く、それが不満や対立の火種になることがあります。
「誰が介護を担ったのか」「誰が費用を負担したのか」という感情の問題は、相続時に顕在化しやすくなります。
だからこそ、介護が始まった段階で、住まいや財産について家族で話し合っておくことが重要になります。
結論
在宅介護の拡充は、高齢者にとって自立した生活を支える重要な制度です。
しかし同時に、相続や空き家問題を先送りしやすくする側面も持っています。
在宅介護と相続、空き家は別々の問題ではありません。
介護が始まった時点から「住まいをどう終わらせるか」を考えることが、家族の負担と将来のトラブルを減らす鍵となります。
参考
・日本経済新聞「特養待機者5万人減 在宅サービスが充実」(2025年12月31日朝刊)
・総務省 空き家対策に関する基礎資料
・厚生労働省 介護保険制度の現状と課題
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
