海外資産がある相続では、「税務」よりも先に「遺産分割」で揉めることが少なくありません。
相続人同士の不信感、情報不足、評価の不透明さ。
これらが重なると、紛争は長期化します。
国際的な情報交換が進む現在、海外資産は隠れる資産ではありません。しかし、分割設計が不十分なまま相続が発生すると、国内相続以上にトラブルが拡大します。
本稿では、国際相続に特有の遺産分割トラブルの典型構造を整理します。
なぜ海外資産は紛争を生みやすいのか
1 情報の非対称性
海外口座や海外法人の存在を、一部の相続人しか知らないケースがあります。
- 誰が管理していたのか
- どの程度の残高があるのか
- 取引履歴はどうなっているのか
が不透明だと、不信感が生まれます。
2 評価が難しい
海外不動産や未上場株式は評価が難しく、相続人間で金額認識が一致しにくい資産です。
為替変動も影響します。
3 現地法手続の負担
海外資産の名義変更には、
- 現地弁護士
- 公証認証
- 翻訳
などが必要となることがあります。
その負担を誰が負うのかも争点になります。
典型的なトラブル事例
事例1:特定相続人が海外資産を管理していた
被相続人の生前から、長男が海外口座を管理していた。
相続開始後、他の相続人が口座明細の開示を求めるが、資料が不十分。
結果として、
- 管理責任の追及
- 生前贈与の有無の疑念
が問題となる。
教訓:生前から透明性を確保しておく必要があります。
事例2:海外法人持分の承継
海外法人の持分を誰が承継するかで対立。
- 経営を担う相続人
- 金銭的価値を求める相続人
の利害が対立する。
評価方法次第で分割比率が大きく変わるため、感情的対立に発展します。
事例3:海外不動産の処分方針
海外不動産を売却するのか、保有し続けるのかで意見が分かれる。
売却には現地手続が必要で時間も費用もかかるため、合意形成が難航します。
税務との連動
遺産分割が長期化すると、
- 相続税申告期限への影響
- 未分割財産の扱い
- 納税資金不足
が問題になります。
紛争が税務リスクに波及する構造です。
実務対応の基本
1 生前の資産一覧化
海外資産の所在・評価目安・管理資料を整理しておきます。
情報の透明化が最大の紛争予防策です。
2 遺言による方向付け
海外資産の承継方針を明示します。
- 特定承継
- 換価分配
- 管理者の指定
を具体的に定めます。
3 評価方法の共有
相続人全員に、評価の前提と資料を共有します。
評価を「見える化」することで、疑念を減らします。
4 納税資金との連動設計
海外資産を承継する相続人に納税負担が偏らないよう、国内資産との調整を行います。
中小企業オーナーの場合
オーナー経営者は、
- 自社株
- 海外子会社
- 個人海外資産
が絡み、経営承継と遺産分割が交錯します。
事業を守る設計と、公平感を確保する設計の両立が必要です。
放置のリスク
海外資産を明示せずに相続が発生すると、
- 相続人間の不信
- 訴訟化
- 追加課税
へと発展する可能性があります。
国際相続は「税務問題」よりも「関係性問題」に発展しやすいのが特徴です。
結論
国際相続の遺産分割トラブルの多くは、
- 情報不足
- 評価不透明
- 方針不在
から生じます。
重要なのは、
1 海外資産を見える化する
2 承継方針を明確にする
3 税務と分割を一体で設計する
ことです。
海外資産は特別な資産ではありません。
しかし、整理が不十分であれば、紛争を生む力は国内資産以上です。
透明性と事前設計こそが、国際相続の最大の予防策となります。
参考
税のしるべ
「6事務年度の租税条約に基づく情報交換事績、過去最多のCRS情報を受領」
2026年2月9日付
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
