海外口座や海外証券を保有しているにもかかわらず、国外財産調書を提出していなかった。
あるいは、提出義務があること自体を認識していなかった。
このような相談は少なくありません。CRSによる情報共有が進む現在、未提出は「いつか分からない」ではなく、「前提として把握され得る」状況にあります。
本稿では、国外財産調書未提出が判明した場合の実務対応を整理します。
まず確認すべきこと
1 本当に提出義務があったのか
国外財産調書は、その年の12月31日時点で国外財産の合計額が5,000万円を超える居住者に提出義務があります。
まず確認するのは、
- 各年末時点の国外財産の合計額
- 居住者該当性
- 名義と実質帰属
です。
義務がなかったのであれば、過度に心配する必要はありません。
未提出がある場合の影響
国外財産調書の未提出や虚偽記載があった場合、
- 所得税の申告漏れがあれば加算税の加重措置
- 重加算税の判断における不利要素
となる可能性があります。
特に海外口座の利息・配当が未申告である場合、問題は調書未提出だけにとどまりません。
実務対応の基本ステップ
1 事実関係の整理
まずは過去分を含めて、
- 国外財産の内容
- 各年末時点の評価額
- そこから生じた所得
を一覧化します。
感覚的な記憶ではなく、資料に基づく整理が重要です。
2 所得申告との整合性確認
国外財産から生じた利息・配当・譲渡益が、所得税申告に反映されているか確認します。
ここに不整合があれば、修正申告の検討が必要になります。
3 自主的な修正の検討
税務調査前であれば、自主的に修正申告を行うことで加算税の取扱いが変わる場合があります。
調査通知後かどうかは重要な分岐点です。
「様子を見る」は適切か
CRSにより海外口座情報は日本に提供され得ます。
未提出のまま放置することは、
- 調査開始時の印象
- 悪質性の判断
に影響する可能性があります。
事実関係が整理できた段階で、方針を決めることが望まれます。
よくある論点
1 少額だから問題にならない
制度上、金額の多寡で提出義務は判断されますが、義務があるにもかかわらず未提出であれば、金額の大小だけで安全とは言えません。
2 海外法人名義だから対象外
実質帰属が問題になる場合があります。形式的名義だけで判断するのは危険です。
3 過去分は時効で問題ない
所得税の更正期間や重加算税の適用可能期間は一律ではありません。時効の検討は専門的な判断が必要です。
相続を控えている場合
未提出の国外財産があるまま相続が発生すると、
- 相続人の調査負担
- 相続税申告への影響
- 加算税リスク
が拡大します。
生前に整理することが重要です。
中小企業オーナーの場合
オーナー経営者は、
- 海外子会社
- 海外法人持分
- 役員貸付金
などが絡み、国外財産調書の対象となるケースがあります。
個人資産と法人資産の区分を明確にしておくことが不可欠です。
結論
国外財産調書の未提出が判明した場合、重要なのは慌てることではなく、事実を正確に把握することです。
対応の基本は、
1 提出義務の有無を確認する
2 所得申告との整合性を確認する
3 必要に応じて自主的修正を検討する
ことです。
海外資産そのものが問題なのではありません。
問題となるのは、説明できない状態です。
国際的な情報交換が進む現在、透明性を前提とした管理体制へ早期に移行することが、将来リスクを最小化する鍵となります。
参考
税のしるべ
「6事務年度の租税条約に基づく情報交換事績、過去最多のCRS情報を受領」
2026年2月9日付
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
