海外資産を持つ方や一定規模の所得がある方にとって、「国外財産調書」と「財産債務調書」は重要な提出書類です。
名称が似ているため混同されがちですが、目的も対象者も内容も異なります。
相続税調査や所得税調査の場面でも、この2つの提出状況は確認されます。本稿では、両制度の違いを整理します。
制度の目的の違い
国外財産調書
国外財産調書は、海外にある財産の把握を目的とする制度です。
国際的な資産移動や海外資産の透明化を背景に導入されました。
焦点は「国外にある財産」です。
財産債務調書
財産債務調書は、高額所得者の資産・負債全体を把握する制度です。
国内外を問わず、保有する財産と債務の状況を報告します。
焦点は「一定所得者の総資産・総債務」です。
提出義務者の違い
国外財産調書
その年の12月31日時点で、国外財産の合計額が5,000万円を超える居住者。
所得水準は問われません。
あくまで国外財産の規模で判定します。
財産債務調書
次のいずれかに該当する場合が対象です。
1 その年分の所得金額が2,000万円を超える
2 かつ、保有財産が3億円以上または有価証券等が1億円以上
所得要件と財産要件の双方が関係します。
対象範囲の違い
国外財産調書
対象は「国外にある財産」のみです。
- 海外預金
- 海外証券
- 海外不動産
- 海外法人持分 など
国内財産や債務は対象外です。
財産債務調書
国内外を問わず、すべての財産と債務が対象です。
- 預金
- 株式
- 不動産
- 保険
- 貸付金
- 借入金
純資産の状況が把握されます。
記載内容の違い
国外財産調書
- 財産の種類
- 所在国
- 数量
- 年末時価
比較的シンプルな構成です。
財産債務調書
- 財産の種類
- 取得価額
- 時価
- 債務の内容
より詳細な情報が求められます。
税務調査との関係
共通点
いずれも税務当局が保有資産の全体像を把握するための資料です。
未提出や記載不備がある場合、加算税の加重措置があります。
相違点
国外財産調書は、CRS情報との突合が中心になります。
財産債務調書は、所得との整合性や資金移動の合理性が確認されます。
例えば、
- 海外口座の利息が所得申告に反映されているか
- 多額の資産取得に対して所得との整合があるか
といった点が検証されます。
相続との関係
国外財産調書は、被相続人の海外資産の存在を示す資料になります。
財産債務調書は、より広範な資産状況の履歴として機能します。
相続税調査では、生前の提出状況が確認されることがあります。
中小企業オーナーに多いケース
中小企業オーナーの場合、
- 海外法人への出資
- 海外口座
- 国内外の不動産
- 役員貸付金
が絡むため、両制度の対象となる可能性があります。
所得が2,000万円を超えるケースも多く、財産債務調書の提出義務が生じることがあります。
実務対応の整理
1 海外資産が5,000万円を超えるか確認する
2 所得と総資産規模を確認する
3 両制度の提出義務を毎年判定する
4 記載内容と所得申告の整合性を確認する
制度ごとに目的が異なるため、別々に管理する意識が重要です。
結論
国外財産調書は「海外資産の把握」。
財産債務調書は「高額所得者の資産全体の把握」。
似ているようで、制度趣旨も対象者も異なります。
共通するのは、透明性を前提とした資産管理を求めている点です。
国際的な情報交換が進むなかで、海外資産も国内資産も区別なく説明可能な状態を維持することが、実務上の基本となります。
参考
税のしるべ
「6事務年度の租税条約に基づく情報交換事績、過去最多のCRS情報を受領」
2026年2月9日付
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
