国債発行、5年に1度の壁――「責任ある積極財政」が試される局面

FP

2026年、日本の財政運営は一つの重要な節目を迎えます。赤字国債の発行を可能にする特例公債法の期限が切れ、5年に1度の更新時期が到来するためです。
この法律が成立しなければ、政府は赤字国債を発行できず、予算が成立しても財源不足という異例の事態に陥ります。さらに今回は、参議院で与党が過半数を持たない「ねじれ国会」と重なる点が、従来以上の不確実性を生んでいます。
本稿では、特例公債法の意味と歴史を整理したうえで、今回の局面が持つ政策的・市場的な含意を考えます。

特例公債法とは何か

特例公債法とは、赤字国債(特例国債)の発行を例外的に認める法律です。日本では建設国債を除く赤字国債の発行は、法律による明示的な承認が必要とされています。
現在、日本の一般会計では、平時であっても年間30兆円超を国債に依存しています。このため、特例公債法が成立しない場合、歳出削減か増税を即時に行わなければ、財政運営そのものが立ち行かなくなります。

なぜ「5年に1度」なのか

もともと特例公債法は、1975年に大平正芳蔵相が「1年限り」の特例として導入しました。国会の関与を毎年求めることで、財政規律を保つ意図があったとされています。
その後、2012年のねじれ国会を契機に、赤字国債の発行期間は4年、さらに安倍政権下で5年へと延長されました。与党が衆参両院で多数を持つ状況では、事実上の「自動更新」となっていたのが実情です。
今回は、その5年期限が切れるタイミングで、再びねじれ国会に直面しています。

ねじれ国会がもたらす政治リスク

特例公債法は、予算案と異なり「衆議院の優越」が及びません。参議院で否決されれば成立しないため、野党の影響力は極めて大きくなります。
野党側から見れば、独自の歳出拡大策や減税を実現するための交渉カードとなり得ます。一方、与党が安易に要求を受け入れれば、市場には財政規律の緩みとして映る可能性があります。

金利環境の変化という新たな制約

14年前のねじれ国会と大きく異なる点は、金利環境です。長期金利は19年ぶりに2%に迫り、債券市場は財政悪化に対して以前より敏感になっています。
特例公債法が成立しなければ市場は混乱しますが、成立過程で際限なく財政拡張が示されても、国債の信認低下を招きかねません。今回の局面は、政治と市場の双方を意識した高度な舵取りが求められています。

「積極財政」と「責任ある財政」は両立するか

高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、一見すると相反する概念にも見えます。しかし、歴史を振り返れば、積極財政と財政規律が必ずしも対立するものではないことが分かります。
所得倍増計画を進めた池田勇人首相を支えたのは、大平正芳氏でした。大平氏は成長政策を認めつつ、「赤字国債は万死に値する」と語り、制度面で強い歯止めを設けました。
問われているのは、積極財政そのものではなく、その弱点を自覚したうえで、どこまで責任を制度と行動で示せるかという点です。

結論

特例公債法の更新は、単なる手続きではありません。日本の財政運営における「責任」とは何かを、内外に示す重要な機会です。
成立を最優先して内容を空洞化させれば、市場の信認を損ないます。一方で、政争の具として法案が停滞すれば、財政運営そのものが危機に陥ります。
2026年の通常国会は、「責任ある積極財政」を言葉ではなく制度設計と行動で示せるかどうかが試される局面になるでしょう。

参考

・日本経済新聞「国債発行、5年に1度の壁」
・財務省「国債制度の概要」
・大平正芳関係資料(戦後財政史)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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