物価上昇と賃金上昇が続くなかで、「手取りが増えない」という感覚が広がっています。その背景を理解するには、税率だけではなく、税と社会保険料を合算した負担構造を見る必要があります。
本稿では、所得税・住民税と社会保険料を合わせた「合算負担率」という視点から、中間層に生じやすい負担圧力、いわゆる「中間層圧縮」現象を整理します。
合算負担率とは何か
合算負担率とは、税と社会保険料を合計した実質的な負担割合を指します。
具体的には、
- 所得税
- 住民税
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
などを合計し、給与総額に対する割合として捉えます。
家計にとって重要なのは、この合計値です。税率が変わらなくても、社会保険料が上昇すれば手取りは減少します。
中間層で負担が強く出やすい理由
中間層は、次の特徴を持ちます。
- 給与所得が中心
- 社会保険加入者が多い
- 各種控除の適用が限定的
このため、名目賃金が上昇すると、
- 所得税の課税所得が増える
- 住民税も増える
- 標準報酬月額が上昇し、社会保険料が増える
という三重の連動が起きます。
基準額据え置きとの交錯
ここに、税制上の基準額据え置きが加わると、負担構造はさらに変化します。
例えば、
- 非課税限度額が物価に連動しない
- 控除額が据え置かれる
場合、実質的な非課税枠は縮小します。
結果として、
- 名目賃金上昇 → 税・保険料増加
- 基準額据え置き → 課税対象拡大
という構造が同時に作用します。
この交錯が、中間層に特有の圧縮感を生みます。
低所得層・高所得層との比較
低所得層
課税最低限付近では税負担は限定的ですが、社会保険料の負担は相対的に重く感じられます。ただし、一定の軽減措置や給付制度の対象となる場合があります。
高所得層
高所得層では税率は高くなりますが、社会保険料には上限があるため、合算負担率は一定水準で頭打ちになります。
その結果、名目賃金の増加に対する負担増の勾配は、中間層ほど急ではありません。
「中間層圧縮」とは何か
中間層圧縮とは、次の現象を指します。
- 名目所得は増加している
- しかし、合算負担率の上昇により可処分所得の伸びが抑制される
- 結果として、実質的な生活余力が縮小する
特に物価上昇局面では、実質所得が伸び悩みやすくなります。
中間層は政策的な給付の対象になりにくい一方、負担は確実に増えるため、圧縮感が強く表れます。
合算負担率で見る政策課題
税率や保険料率を個別に議論しても、家計実感との乖離が生じる場合があります。
今後の制度設計では、
- 合算負担率の可視化
- 中間層への分配影響の定期点検
- 税と社会保障の一体的な設計
が重要になります。
特に、基準額の見直しは、合算負担率の調整弁としての役割を持ち得ます。
物価上昇局面での構造的問題
物価が持続的に上昇する局面では、
- 税制の基準額が据え置かれる
- 社会保険料は名目賃金に連動
- 実質賃金は伸び悩む
という構造が生じやすくなります。
この三者の組み合わせが、中間層の生活余力を徐々に圧縮していきます。
結論
合算負担率の視点で見ると、中間層は税と社会保険料の双方から影響を受けやすい構造にあります。
- 名目賃金上昇に連動する社会保険料
- 基準額据え置きによる実質課税拡大
- 累進税率の適用拡大
これらが重なることで、「中間層圧縮」現象が生じます。
今後の議論では、税率や保険料率の個別論にとどまらず、合算負担率という統合的視点が不可欠です。基準額見直しは、その調整の一手段となり得ます。
参考
・税のしるべ 2026年3月2日「8年度税制改正による基準額等の見直しは39件、食事支給に係る所得税非課税限度額など」
・厚生労働省 健康保険・厚生年金保険制度資料
