取得5年ルールは本当に合理的か――貸付用不動産評価見直しの時間基準を考える

税理士
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令和8年度税制改正大綱では、取得後5年以内の一定の貸付用不動産について、原則として課税時期における通常の取引価額で評価する方針が示されました。

いわゆる「取得5年ルール」です。

このルールは、相続直前の不動産取得による評価圧縮を防ぐことを目的としています。しかし、時間を基準に評価方法を区分することは、本当に合理的といえるのでしょうか。

本稿では、取得5年ルールの制度趣旨と、その合理性について検討します。


なぜ「5年」という期間なのか

今回の改正の背景には、相続開始直前に借入を活用して賃貸マンション等を取得し、通達評価により大幅な評価圧縮を図る事例があります。

このような「駆け込み型」対策を抑制するためには、取得から相続までの期間を考慮する必要があります。

5年という期間は、

・短期的な節税目的取得を排除する
・一定期間の保有を求める
・制度の明確性を確保する

という観点から設定されたものと考えられます。

しかし、「5年」で線を引くこと自体に理論的必然性があるわけではありません。3年でも7年でもよいはずであり、政策的判断の色彩が強い基準です。


時間基準のメリット

取得5年ルールには、いくつかのメリットがあります。

第一に、客観的で分かりやすいことです。取得日と相続開始日という明確な日付で判断できるため、予測可能性が高まります。

第二に、通達6項のような個別的・事後的判断に依存しないことです。制度として明文化されれば、納税者の不安定さは一定程度解消されます。

第三に、極端な租税回避事例を制度的に封じる効果が期待できます。

形式的な節税スキームに対して、時間という基準で歯止めをかける手法は、立法技術としては理解可能です。


時間基準の限界

しかし、時間を基準とすることには限界もあります。

たとえば、次のようなケースです。

・事業拡大のために取得した不動産が偶然5年以内に相続に至った場合
・長期保有目的で取得したが予期せぬ死亡があった場合
・取得後に地価が下落している場合

このような場合でも一律に「通常の取引価額」で評価することが合理的かどうかは、検討の余地があります。

租税回避目的の取得と、正当な事業目的の取得とを時間のみで区別することには無理があります。


5年超保有との不均衡

取得5年を超えれば、従来どおりの通達評価が適用される可能性があります。

そうなると、同じ貸付用不動産であっても、

・取得後4年11か月で相続が発生した場合
・取得後5年1か月で相続が発生した場合

で評価方法が大きく異なることになります。

この差は、租税公平の観点から説明可能でしょうか。

制度上は明確であっても、実質的な公平性との緊張関係が生じます。

時間基準は分かりやすい反面、境界事例において不合理感が生じやすいという特徴があります。


本来の問題は「時間」なのか

そもそも問題とされたのは、取得直後の市場価格と通達評価額の乖離です。

本質的な論点は、

・評価方法が実勢価格をどの程度反映しているか
・取得価格が適正であったか
・取引の実質に節税目的がどの程度含まれているか

という点にあります。

時間はその一つの指標にすぎません。

本来であれば、取引の実質や価格形成過程に着目した制度設計も考えられます。しかし、それは運用上の不確実性を高めるおそれがあります。

その結果、立法は「時間」という客観的基準を選択したと理解できます。


市場行動への影響

取得5年ルールは、納税者行動に影響を与える可能性があります。

例えば、

・相続対策としての取得時期の前倒し
・法人化や信託の活用
・他の資産クラスへの資産移転

などが考えられます。

制度変更は常に市場行動を変えます。時間基準が導入されれば、今度はその基準を前提とした行動が選択されます。

税制は静的なものではなく、納税者行動との相互作用の中で評価すべきものです。


合理性の評価

取得5年ルールは、極端な事例への対応という点では合理性を有します。

しかし、それはあくまで政策的合理性であり、理論的必然性とは異なります。

評価の原則は「時価主義」です。時間そのものが時価を決めるわけではありません。

時間を基準とする以上、その適用範囲や例外規定、補正措置をどのように設計するかが制度の質を左右します。

今後の政省令や通達整備において、過度な形式化を避けつつ、実質的公平をどう確保するかが問われます。


結論

取得5年ルールは、租税回避的な取得を抑制するための政策的対応として理解できます。

しかし、時間という一律基準は、常に境界事例において不合理感を伴います。

重要なのは、評価制度全体としての一貫性と予測可能性を維持することです。

時間基準はその一手段にすぎません。評価の本質が「市場価格との整合性」にあることを見失わない制度設計が求められます。

今後の具体的な制度整備を注視する必要があります。


参考

・2026年02月09日 税のしるべ 連載「続・傍流の正論~税相を斬る」第78回/貸付用不動産の評価

・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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