取り崩し投資の新戦略②「資産を長持ちさせる取り崩し率」――4%ルールを超えて考える日本型の設計

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◾️「長生きリスク」とは、“お金が続かないリスク”のこと

人生100年時代。
多くの方が、60歳前後で一度「この先、資産は何年もつのだろう?」と考えます。

たとえば、65歳で退職金を受け取り、年金とあわせて老後生活を始めるとします。
貯蓄・投資の総額が3,000万円あるとして、
月10万円(年間120万円)を取り崩すと――
25年で資金は尽きます。

もし90歳、95歳まで生きたら?
お金が先に尽きる「長生きリスク」が現実になります。

だからこそ必要なのが、

「どのくらいのペースで取り崩せば、資産が長持ちするか」
という取り崩し率(withdrawal rate)の設計です。


◾️米国で知られる「4%ルール」とは

このテーマでよく知られるのが、米国の「4%ルール」。
退職時の資産をもとに、毎年4%ずつ取り崩していけば
30年間は資金がもつ――という経験則です。

1990年代に米国のトリニティ大学の研究者が提唱し、
その後、世界中で老後資金設計の指標となりました。

しかし、このルールはあくまで米国の前提に基づいています。

  • インフレ率:約2~3%
  • 平均株式リターン:約7%前後
  • 債券利回り:約4%前後

つまり、「資産運用で増えるスピード」が日本より速いのです。


◾️日本では“3%台”が現実的

一方、日本の金利・物価環境では、
4%はやや高めの取り崩し率といえます。

日本の長期金利は1%未満の時代が長く続き、
株式市場もボラティリティ(価格変動)が大きい。
リスク資産の比率を抑えて運用している方が多い中で、
同じ4%を毎年取り崩せば、
途中で資産が減り切ってしまう可能性もあります。

そこで現実的なのが――

「年2.5~3.5%程度を基準に、運用益と連動させる」
という“変動型の取り崩し”です。

たとえば資産が3,000万円で、取り崩し率を3%とすれば、
1年あたりの取り崩し額は90万円(月7.5万円)。
株式・投信などの運用益が出た年は少し多めに、
運用が厳しい年は少なめに取り崩す。

「生活のリズムに合わせる」のではなく、「資産のリズムに合わせる」
それが、長く続く取り崩しのコツです。


◾️“分配型投信”を活かす取り崩し戦略

定期的に分配金が入る投資信託を、
「生活費の一部をまかなう道具」として活用する方法もあります。

ただし注意すべきは、
「分配=利益」とは限らないこと。

運用益を上回る分配は“元本払戻金”となり、
見た目の利回りより実質的な残高は減っていきます。

したがって、「分配の頻度」より「分配の持続性」を重視すべきです。
年4回や年6回分配の投信を選び、
複数のファンドを組み合わせて“擬似毎月分配”を作る。

これなら、生活費を補いながらも、
資産全体の基準価額を大きく損なわずに済みます。


◾️「取り崩しながら増やす」ことは可能か?

「取り崩したら減るに決まっている」――
そう考えがちですが、実はそうでもありません。

資産配分(ポートフォリオ)を工夫すれば、
取り崩しながら資産を保ち、場合によっては増やすことも可能です。

例えば次のような設計です:

  • 生活防衛資金:200万円(普通預金)
  • 安定収入資産:1,000万円(債券・分配型投信など)
  • 成長資産:1,800万円(株式・インデックスファンドなど)

このように、資産を「用途別」に分けておけば、
運用環境が悪いときは防衛資金を使い、
好調なときに成長資産を一部取り崩すことで、
長期的なバランスを保つことができます。


◾️“心理的な安心”も寿命を延ばす

取り崩し投資の難しさは、
数字だけでなく「心理」との向き合い方にもあります。

人は、自分の資産が減っていくと不安になります。
この不安が強いと、投資を途中でやめてしまい、
結果的に資産の寿命を縮めることにもなりかねません。

ですから、

「これくらいのペースなら安心して使える」
という“心の取り崩し率”を持つことが大切です。

無理に我慢するより、
“自分に合ったペース”を決めておくことで、
人生全体の幸福度が高まるケースも多いのです。


◾️インフレリスクと長寿リスクをどう防ぐか

もう一つの注意点は、物価上昇
もし年2%のインフレが続けば、
20年後には生活費が約1.5倍に膨らみます。

取り崩し率を一定にしていると、
実質的には「年々、使えるお金が減っていく」ことになります。

対策としては、

  • 分配金を一部再投資して“実質資産”を保つ
  • 株式やリートなど、インフレ耐性のある資産を一定割合保有する
  • 医療・介護など将来支出の増える分野に備え、別枠で資金を確保する

など、リスクを見越した設計が求められます。


◾️税金にも目を向けておく

取り崩し戦略を考えるうえで、
「税のタイミング」も見落とせません。

分配金・譲渡益・年金などはそれぞれ課税タイミングが異なります。
これを平準化(分散)することで、
税負担を軽減しながら手取りを安定化できます。

NISA(新しい非課税制度)を活用すれば、
分配金や譲渡益にかかる税を抑え、
長期運用と取り崩しの両立がしやすくなります。


◾️FP・税理士のまとめ

「取り崩す=減る」と考えるのではなく、

「持続的に取り崩す=資産を長持ちさせる技術」
と捉えることが大切です。

取り崩し率を“決める”ことは、
同時に“人生設計を見える化する”ことでもあります。


◾️次回予告:「キャッシュフロー設計の実践へ」

シリーズ最終回では、
「キャッシュフロー設計の実践」をテーマに、
四半期分配型投信や高配当株投信を組み合わせた
“再現性の高い取り崩しポートフォリオ”を解説します。

資産を減らさずに「息づかせる」――
そんな投資信託との付き合い方を具体的に考えていきましょう。


📖 参考:
日本経済新聞「『毎月分配型投信』の歴史と今 注目投信は四半期分配型」(2025年10月11日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1069Q0Q5A011C2000000/?n_cid=dsapp_share_ios


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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