取り崩し投資の新戦略①「取り崩すことは悪ではない」――毎月分配型の功罪と進化

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◾️“取り崩す”ことに罪悪感を感じていませんか?

投資をしている方の多くは、
「なるべく減らさない」「元本を守る」
という考え方を大切にしてきたと思います。

確かに、それは大切な姿勢です。
しかし、人生100年時代。
資産を「守る」だけでなく、「生かす」ことが求められています。

老後や退職後に入ってくるお金(年金・企業年金など)が限られる中で、
「積み上げてきた資産をどう使うか」こそが、
これからの資産運用の中心テーマです。

「取り崩すこと=悪いこと」ではなく、
「持続的に取り崩す=戦略」です。


◾️毎月分配型が生まれた背景

1998年に銀行で投資信託の販売が解禁されて以降、
一気に人気が広がったのが「毎月分配型投信」です。

退職世代を中心に、
「毎月お金が入ってくる安心感」
「定期的に収入があるような感覚」
が支持を集めました。

このブームを後押ししたのが、
2000年4月に導入された個別元本方式です。

これは、投資家ごとに平均取得価額を計算し、
その価額を下回る部分の分配を「元本払戻金(非課税)」として扱う仕組み。
運用会社は、運用益が少ない局面でも分配しやすくなったのです。

結果として、「毎月お金が入る投信」が次々と登場しました。
年金の補完としての位置づけで、
シニア層を中心に一時代を築いたのです。


◾️人気の裏で生まれた“副作用”

ところが、人気が過熱するにつれ、
「分配金を増やすための過剰競争」が起こりました。

運用益を超える分配が行われ、
基準価額(資産価値)は少しずつ下落。

中には「元本を取り崩して分配している」ことを理解しないまま
安心感だけで保有しているケースも多く見られました。

2008年のリーマン・ショック後には、
為替オプションなどを組み合わせて高分配を狙う
「2階建て」「3階建て」型の複雑な商品も登場しました。

これらは、確かに一時的には高い分配を生みましたが、
リスクが高く、相場下落時には基準価額が大きく下がる事例もありました。

こうした動きを受けて、金融庁は「分配型投信」の販売姿勢を厳しく監視するようになりました。


◾️分配を“持続可能”にする工夫

その後、業界が取り組んだのが「予想分配金提示型」という新たな仕組みです。

これは、

「前月末の基準価額が◯円台なら、今月の分配金は◯円」
とあらかじめ目安を示す方式。

基準価額に応じて分配額を柔軟に変えることで、
無理のない範囲での分配を実現しました。

代表的な例が、
アライアンス・バーンスタイン社の「米国成長株投信(Dコース・毎月決算型)」です。

2014年に登場し、米国株式の上昇を背景に人気を集めました。
しかし2025年のトランプ・ショック時には、
2カ月連続で分配金がゼロになりました。

驚かれた方も多いでしょうが、
これは「身の丈以上の分配をやめる」健全な判断。
持続可能性を守る仕組みがきちんと働いた結果です。


◾️“分配”は年金のように受け取れる設計へ

批判を受けながらも、定期分配型投信の人気が続いてきた理由。
それは、「取り崩しながら生きる」ニーズが確かに存在するからです。

「資産を増やしながら、少しずつ生活に使っていきたい」
という感覚は、老後世代にとって自然な発想です。

特に近年注目されている「プラチナNISA」構想は、
この“取り崩し期の資産活用”を制度として支援するものです。
つまり、国の制度設計も「使う投資」へとシフトしつつあるのです。


◾️毎月よりも“持続的”を選ぶ

過去の教訓から学ぶべきは、
「毎月」「高利回り」にこだわりすぎないことです。

毎月分配型の中には、運用益を食いつぶしてしまうケースもありました。
しかし、隔月(年6回)や四半期(年4回)など、
分配の間隔を広げることで運用効率を保ちながら安定的に分配を受け取ることも可能です。

さらに、分配月が異なる複数の投信を組み合わせれば、
結果的に「実質的な毎月分配」に近いキャッシュフローも作れます。

いま増えているのは、まさにそうした“設計型の取り崩し投資”。
それは、短期的な分配額よりも再現性の高い分配金を重視するスタイルです。


◾️FP・税理士の視点から

長年、相談を受けて感じるのは、
「取り崩すことに対する心理的な抵抗」が非常に強いということです。

でも、資産を守るだけでは、
老後の生活が“安心”になるとは限りません。

本当に必要なのは――

「どのくらいのペースで」「どの順番で」「どの資産から」取り崩すか。

その順序を設計することが、
資産寿命を延ばす最大のポイントです。


◾️次回予告:「資産寿命を延ばす取り崩し率とは?」

次回はシリーズ第2回、
「4%ルールを超える、日本型の取り崩し率」をテーマにお届けします。

米国の理論をそのまま持ち込むのではなく、
日本の金利・物価・年金制度に即した現実的な取り崩し戦略
具体的なシミュレーションを交えて解説します。


📖 参考:
日本経済新聞「『毎月分配型投信』の歴史と今 注目投信は四半期分配型」(2025年10月11日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1069Q0Q5A011C2000000/?n_cid=dsapp_share_ios


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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