これまでの記事では、
- 第1回:退職金での投資デビューは危険
- 第2回:投資経験者が退職後も運用を続ける戦略
- 第3回:投資をしない人の安全第一の取り崩しシミュレーション
と進めてきました。
今回はさらに踏み込み、「収入源を増やす工夫」をテーマにお伝えします。
退職後の生活を支えるのは、必ずしも資産や年金だけではありません。働き方や年金の受け取り方を工夫することで、資産寿命を延ばすことが可能になります。
年金の繰下げ受給で「長生きリスク」に備える
公的年金は65歳から受け取るのが基本ですが、受給開始を繰り下げると受給額が増える仕組みがあります。
- 1カ月繰り下げるごとに0.7%増額
- 最大75歳まで繰り下げ可能
- 65歳から75歳まで繰り下げると、受給額は最大で84%増
例えば、65歳で月15万円の年金を受け取れる人が、70歳まで繰り下げた場合:
- 15万円 × 1.42 = 月21.3万円
となり、毎月6万円以上多く受け取れる計算です。
もちろん、その間は貯蓄を取り崩す必要がありますが、長生きリスク(90歳以上まで生きるケース)に備える保険的な意味を持ちます。
再雇用・パートで「少し働く」ことの大きな効果
退職後に「完全リタイア」を選ぶ人もいれば、「もう少し働く」人も増えています。
- 65歳以降も継続雇用制度で働く
- パート・アルバイトで月5〜10万円程度の収入を得る
- 資格や経験を活かした「顧問契約」など
実は、この「少しの収入」が老後資金に大きな効果をもたらします。
シミュレーション
- 年金:月20万円
- 生活費:月30万円
- 不足:月10万円
ここに再雇用で月5万円を加えると、不足は5万円に減ります。
年間60万円、30年間で1,800万円の取り崩しで済みます。
👉 もし働かなければ不足は月10万円、年間120万円、30年で3,600万円の取り崩しが必要です。
わずか月5万円の収入差が、資産寿命に1,800万円の違いを生むのです。
副業・小さな事業の活用
近年は「副業解禁」の流れもあり、退職後に自分で収入源を作る人も増えています。
- 執筆、講師業、コンサルティング
- ネットショップやハンドメイド販売
- 地域での仕事(農業体験、観光案内など)
- 資格を活かした活動(FP、税理士、行政書士など)
副業の魅力は、お金だけでなく生きがいにつながることです。
ただし、初めての事業で大きなリスクを取るのは避けるべきです。
「生活費をカバーする副収入」程度を目標にするのが現実的でしょう。
勤労収入と年金の「併用ルール」に注意
65歳以降も働く場合、注意すべきは「在職老齢年金」の仕組みです。
- 65歳未満の場合:給与+年金が月28万円を超えると年金が減額
- 65歳以上の場合:給与+年金が月47万円を超えると年金が減額
つまり、働きすぎると年金が減ることがあります。
ただし、減額された分は将来の年金額に反映されるため、完全な損ではありません。
制度を理解した上で働き方を調整することが大切です。
「働き方」を資産設計に組み込む
退職後の働き方は、資産寿命に直結します。
- 「資産を守る」ために少し働く
- 「生きがい」を持つために働く
- 「社会とのつながり」を維持するために働く
これらはすべて資産運用と同じくらい大切な「資産寿命戦略」なのです。
実際のケーススタディ
ケース①
65歳で完全リタイア、退職金3,000万円+年金月20万円
👉 生活費月30万円なら資産は85歳前後で尽きる可能性
ケース②
65歳から70歳まで再雇用で月8万円の収入、70歳以降は年金繰下げで月25万円受給
👉 退職金はほとんど減らず、90歳を超えても資産を維持可能
この差は「少し働くかどうか」「年金を繰下げるかどうか」という選択の違いだけで生まれます。
まとめ
退職後の資産寿命を延ばすには、
- 年金の繰下げ受給を検討する
- 再雇用やパートで「少し働く」
- 無理のない副業で収入源を増やす
- 勤労収入と年金の併用ルールを理解する
という工夫が重要です。
資産を増やすことばかりに目を向けるのではなく、「収入源を増やす工夫」も資産寿命戦略の一部なのです。
📖参考文献
- 野尻哲史『100歳まで残す 資産「使い切り」実践法』(日本経済新聞出版)
- 厚生労働省「在職老齢年金の仕組み」
- 「退職金での投資デビューはなぜお勧めできないのか」日本経済新聞(2025年9月22日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
