特定生産性向上設備等投資促進税制の大きな特徴は、
「即時償却」または「税額控除」を選択適用できる点にあります。
制度上はいずれも強力な優遇措置ですが、実務においては「どちらを選ぶべきか」で悩む場面が少なくありません。
本稿では、税務実務の視点から、両者の違いと判断の軸を整理し、企業がどのように選択すべきかを考えていきます。
即時償却の仕組みと効果
即時償却とは、対象設備について、普通償却限度額と合わせて取得価額の全額を初年度に損金算入できる制度です。
この措置の最大の効果は、課税所得を一気に圧縮できる点にあります。
設備投資額が大きいほど、当期の法人税負担を大幅に軽減でき、キャッシュアウトを抑える効果が期待できます。
特に次のような企業では、即時償却のメリットが大きくなります。
・当期の利益水準が高く、法人税額も大きい
・投資初年度のキャッシュフローを重視している
・今後、利益が不安定になる可能性がある
即時償却の注意点
一方で、即時償却は「税金がなくなる制度」ではありません。
あくまで償却時期を前倒しするものであり、将来年度の減価償却費が減少します。
その結果、
・翌期以降の課税所得が増えやすくなる
・業績が安定している企業では、税負担が平準化されない
といった影響が生じます。
中長期的な税負担の見通しを立てずに即時償却を選択すると、後年度で思わぬ税負担増につながる可能性があります。
税額控除の仕組みと効果
税額控除は、取得価額の7%(建物等は4%)を法人税額から直接差し引く制度です。
損金算入ではなく「税額そのもの」を減らす点が、即時償却との大きな違いです。
税額控除の特徴として、
・利益水準に左右されにくい
・将来年度に償却費を残せる
という点が挙げられます。
また、当期に控除しきれない場合でも、控除限度超過額を3年間繰り越せるため、一定の柔軟性があります。
税額控除の制約
税額控除には明確な上限があります。
控除できる金額は、当期法人税額の20%までとされており、設備投資額が大きくても、税額が小さい場合は十分に活用できません。
また、赤字法人の場合、当期に税額が発生しないため、即効性は限定的です。
繰越控除があるとはいえ、将来の黒字化を前提とした制度である点は意識しておく必要があります。
判断の軸①:当期と将来の利益水準
実務上、最も重要な判断材料は「利益のタイミング」です。
・当期利益が大きく、将来は不透明
→ 即時償却が有力
・当期・将来ともに安定した利益が見込まれる
→ 税額控除を含めた比較検討が有効
短期的な節税効果を重視するのか、長期的な税負担の安定を重視するのかで選択は大きく変わります。
判断の軸②:キャッシュフロー重視か、税負担の平準化か
即時償却は初年度のキャッシュフロー改善に優れています。
一方、税額控除は、償却費を将来に残しつつ税額を減らすため、税負担の平準化に向いています。
設備投資の目的が、
・短期的な資金繰りの改善なのか
・中長期的な事業運営の安定なのか
この違いも、選択判断に直結します。
判断の軸③:グループ全体での税務戦略
大規模投資を行う企業では、単体ではなくグループ全体での税務戦略も重要です。
連結納税やグループ通算制度を採用している場合、
・即時償却による損金の影響
・税額控除の適用範囲
をグループ全体で検討する必要があります。
この点でも、制度を単独で見るのではなく、全体最適の視点が欠かせません。
結論
特定生産性向上設備等投資促進税制における「即時償却」と「税額控除」は、いずれも強力な制度ですが、適する企業像は異なります。
即時償却は、短期的な利益圧縮とキャッシュフロー改善を重視する企業向け。
税額控除は、安定した利益を前提に、長期的な税負担を見据える企業向け。
重要なのは、制度の有利・不利を単年度で判断せず、事業計画・利益計画と一体で選択することです。
この税制は、税務判断そのものが経営判断に直結する制度だといえるでしょう。
参考
・2026年度税制改正大綱
・税のしるべ(2026年1月5日)
・法人税法関係資料(設備投資税制の概要)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
