医療費はなぜ膨らみ続けるのか ― 現役世代にのしかかる重荷

FP

2025年10月から、75歳以上の方の医療費負担が実質的に増える制度改正が完全施行されます(第1回参照)。今回の改正は「支払い能力に応じた負担」を導入する第一歩ですが、その背景には日本の医療費が膨張し続けている現実があります。

第2回では、この医療費増大の実態と、そのしわ寄せが現役世代にどのように及んでいるのかを掘り下げていきます。


医療費の現状 ― 48兆円に迫る規模

厚生労働省の統計によると、2024年度の国民医療費は48兆円に達しました。これは過去最高を更新し続けている数字です。

ポイントは「高齢者の増加」だけでは説明できないという点です。人口動態を超えるペースで医療費が膨らんでいるのは、次の要因があります。

  • 高額な新薬や先進医療技術の保険適用
    がん治療薬や難病治療薬は効果が大きい一方、1人あたり数百万円規模の薬価になることも。
  • 長寿化に伴う慢性疾患の増加
    高血圧や糖尿病など、長期的に医療資源を必要とする患者が増えている。
  • 外来受診の頻度の高さ
    軽度の症状でも気軽に医療機関を利用できる日本の仕組み。

これらが積み重なり、単なる高齢化以上のスピードで医療費を押し上げています。


医療費の財源 ― 誰が負担しているのか?

医療費の財源構造を見ると、現役世代への依存度の高さが浮き彫りになります。

75歳以上の医療費財源内訳

  • 税金 … 50%
  • 現役世代からの拠出金 … 40%
  • 75歳以上本人の保険料 … 10%

つまり、医療費の9割は「税金」と「現役世代の保険料」でまかなわれています。

一見すると「高齢者の自己負担が少なすぎるのでは?」と思うかもしれませんが、制度が始まった当初から「高齢者を社会全体で支える」という発想が根底にありました。しかし少子高齢化が加速する現在、この仕組みは持続可能性に疑問符がついています。


現役世代の負担が重くなる理由

日本は少子化によって、現役世代の人口が減少し続けています。

  • 1960年代 … 高齢者1人を支える現役世代は約8人
  • 2020年代 … その数は約2人
  • 2040年ごろ … ついに1.3人程度に

つまり、少人数で多くの高齢者を支える「逆ピラミッド型」の社会が進行しているのです。

この構造の中で「高齢者の医療費を守るために現役世代が負担する」という仕組みは、もはや限界に近づいています。負担の増加は、若い世代の消費や将来設計を圧迫し、経済全体の停滞を招くリスクさえあります。


2割負担導入の意味 ― 公平性の回復

2022年に導入された「75歳以上の2割負担」は、この現役世代への重い負担を少しでも軽減しようとする試みです。

これまで「高齢者は原則1割」という一律の考え方でしたが、一定の所得がある人には応分の負担をお願いするという方向に転換しました。

今回の10月からの完全施行で経過措置がなくなると、実質的に初めて「世代間の公平性」を意識した改革が動き出すといえるでしょう。


それでも足りない現実

ただし、2割負担の対象となるのは75歳以上のわずか15%にすぎません。大半の高齢者は1割負担のままであり、改革としては限定的です。

医療費増大のスピードを考えると、このままでは現役世代への負担軽減効果は限定的で、さらに大きな制度見直しが不可欠です。


生活者目線で見える課題

現役世代にとって、医療保険料や税負担の増加は家計の圧迫につながります。

  • 給与からの天引き額が年々増える
  • 子育て世帯にとっては教育費との二重負担
  • 若い世代が「自分は将来、十分な医療を受けられるのか」と不安を抱く

こうした「制度への信頼感」が揺らぐと、社会保障全体の基盤が危うくなります。


まとめ

  • 日本の医療費は2024年度に48兆円に達し、高齢化を超えるスピードで増大している。
  • 75歳以上の医療費の財源は、その9割を税金と現役世代が負担しており、持続可能性に限界が近づいている。
  • 2割負担の導入は公平性を回復する一歩だが、対象者は15%にとどまり、効果は限定的。
  • 現役世代の負担軽減を図らなければ、社会保障制度全体への信頼が揺らぐ恐れがある。

📖 参考

  • 日本経済新聞「医療保険の負担の改革をさらに進めよ」(2025年9月30日)
  • 厚生労働省「国民医療費の推移」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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