医療アクセス格差と地域医療の再編 ― 支え合う医療のかたちを求めて

FP

「どこに住んでいても、必要な医療を受けられる社会をつくる」――この理想が、いま岐路に立っています。
医師不足、病院の統合・再編、そして人口減少。医療資源の偏在が進み、都市と地方、若者と高齢者の間に“アクセス格差”が広がっています。
オンライン診療や地域連携によって新しい形の医療が模索される一方で、現場と生活者の距離は依然として大きいのが現実です。

医師不足と地域偏在

厚生労働省によると、地方では医師数が都市部の半分以下にとどまる地域もあります。
診療科別では、産婦人科・小児科・外科で特に不足が深刻です。
背景には、医師の働き方改革による勤務時間制限、医局制度の変化、そして若手医師の都市志向があります。
その結果、地方では「24時間対応の救急が難しい」「出産できる病院がない」という地域も増えています。

医療資源の集約化を進めるため、国は「地域医療構想」に基づく病床再編を進めていますが、病院が統合されるほど“通えない人”が生まれるという矛盾を抱えています。

生活者にとっての医療格差

医療アクセスの問題は、単なる距離の問題ではありません。
高齢者や障害者にとっては、通院手段そのものが課題です。公共交通の縮小や免許返納によって、「病院に行くための交通費が高くつく」「診療を諦める」といった声が現場から聞かれます。
また、地方だけでなく都市部でも、独居高齢者や外国人労働者、低所得層が医療機会から取り残される“見えない格差”が拡大しています。

医療はあっても「届かない」、制度はあっても「使えない」――。この構造的な断絶をどう埋めるかが問われています。

オンライン診療と地域医療の再構築

コロナ禍を契機にオンライン診療が広がり、医療のあり方が変わりつつあります。
通院が難しい高齢者や遠隔地の患者にとっては大きな支えとなる一方で、通信環境やデジタルリテラシーの格差が新たな壁になっています。
「スマホが使えない高齢者はオンライン診療を受けられない」「医師との信頼関係が築きにくい」といった課題も浮き彫りです。

一方、北海道や長野県などでは、訪問看護や地域薬局がオンライン診療の橋渡し役を担い、対面と遠隔を組み合わせた“ハイブリッド医療”を実践しています。
地域医療はもはや病院だけのものではなく、「診る人」「支える人」「つなぐ人」が連携する総合的なシステムへと進化しています。

現場と政策のあいだで

医療従事者の間では、「地域医療の再編=削減」という誤解が根強くあります。
実際には、医療を“減らす”のではなく、“つなぐ”ことが目的です。
医療資源を集約する一方で、在宅医療や訪問診療、地域薬局の役割を拡大し、日常生活の中に医療を届ける――これが新しい地域医療の方向性です。

そのためには、行政による制度設計だけでなく、医療者と住民が対話を重ねることが欠かせません。
「病院を残すか、つなぐか」ではなく、「どのように支え合う医療をつくるか」。そこに地域の合意形成が求められます。


結論

医療アクセス格差の解消は、単に病院を増やすことではありません。
地域の中で医療と生活を結びつけ、「患者が行ける医療」「医師が続けられる医療」を両立させることが、本当の改革です。

高市政権が掲げる「責任ある積極財政」においても、医療投資は単なるコストではなく、地域のインフラ投資と位置づけるべきです。
医療を支えることは、地域を支えること。
その発想の転換こそが、共生社会にふさわしい「支え合う医療のかたち」をつくります。


出典

・厚生労働省「地域医療構想」関連資料(2025年)
・日本医師会「地域医療と医師偏在の実態」
・日本経済新聞「共生社会と社会保障」シリーズ(2025年11月)
・内閣府「デジタル田園都市構想」資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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