高齢者の就業者数は930万人に達し、今や「7人に1人が高齢者」という時代。元気に働く姿は頼もしい一方で、避けて通れない課題があります。
それが「労災リスク」です。年齢を重ねるとどうしても身体能力や反応速度は低下し、事故のリスクが高まります。
ここでは、高齢労働者を取り巻く労災リスクと、改正法や企業・社会が取るべき対策について整理します。
高齢者の労災リスク ― なぜ高まるのか
高齢労働者は、若年層に比べて労災発生率が高いことがわかっています。その背景には以下の要因があります。
- 身体機能の低下
視力や聴力、筋力の低下により、転倒や機械操作のミスにつながる。 - 反応速度の遅れ
とっさの判断や動作が遅れ、事故回避が難しくなる。 - 持病や体調の影響
高血圧や糖尿病など持病が影響する場合もあり、急な体調変化で事故に至るリスク。 - 慣れによる油断
長年の経験から「大丈夫だろう」という意識が、逆にリスクを招くことも。
改正労働安全衛生法 ― 高齢者への配慮が努力義務に
2025年5月に成立した改正労働安全衛生法では、高齢労働者の労災防止のため、事業者に作業環境改善の努力義務が課されました。
具体的には:
- 作業時間・作業量を年齢に応じて調整する
- 転倒防止のための床材・照明の改善
- 危険作業を避けるための配置転換や補助機器の導入
これらは「義務」ではなく「努力義務」ですが、社会的責任や企業の評判を考えれば無視できません。むしろ「シニアが安心して働ける職場づくり」が競争力につながる時代に入ったとも言えます。
企業に求められる工夫
高齢者雇用を進める企業にとっては、「安全」と「活躍」の両立が不可欠です。
- 職場環境の改善
段差解消、明るい照明、滑りにくい床材、重い荷物を持たなくて済む機械の導入。 - 配置の工夫
高所作業や重量物の運搬は若手が担当し、高齢者は経験を生かせる検品・指導などを担う。 - 健康管理の徹底
定期健診や体調確認を強化し、持病に配慮したシフト組み。 - 教育・啓発
「ベテランだから大丈夫」ではなく、リスク認識を常にアップデートする。
働く高齢者自身の視点
安全は企業任せではなく、働く本人も意識することが重要です。
- 無理をせず、体力に応じた仕事を選ぶ
- 疲れを感じたら休む勇気を持つ
- 「もう慣れているから大丈夫」という思い込みを捨てる
- 新しい安全ルールや機器の使い方を学び直す
高齢者自身が「自分を守る」意識を持つことで、事故を大きく減らすことができます。
税理士・FPの視点から ― 労災と生活の安定
万が一、労災事故に遭った場合の生活リスクは大きいです。
高齢期の収入源を失えば、年金だけでは心許ないケースも少なくありません。
- 労災保険からの給付で一定の補償は受けられる
- しかし、長期的な生活費や医療・介護費までは十分でない場合もある
- 民間の収入補償保険や医療保険との組み合わせで備えが可能
つまり、「安全に働くこと」と「備えて働くこと」の両輪が必要だと言えます。
まとめ
高齢者の就業が当たり前になる時代。労災リスクは避けられない課題ですが、職場環境の改善と働く本人の意識で大幅に軽減できます。
- 企業にとっては「安全な職場=人材確保の強み」
- 高齢者にとっては「安全に働く=人生を豊かに続ける力」
前回触れた「働き続ける意味」に加え、今回は「どう安全に働き続けるか」が焦点でした。
人生100年時代を支えるためには、シニアの労働力を社会全体で守る仕組みが不可欠です。
📌 参考:日本経済新聞(2025年9月15日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
