加算税・延滞税・調査対応のリアル― 修正申告をするか、しないか(調査官の指摘 vs 会社の言い分⑧・最終回)

税理士
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税務調査の最終局面で問われるのは、「修正申告をするかどうか」。
この判断は、単に追徴税額の多寡だけでなく、加算税・延滞税の取扱い、さらには将来の調査対応への影響をも左右します。

令和7年度の全国統一研修会では、調査官の指摘と会社側の判断のずれが大きい3つの事例が取り上げられました。


① 重加算税の判断 ― 「隠ぺい・仮装」とはどこまで?

事例
A社は架空の外注費を計上し、後日調査で発覚。
外注先は実在するが、実際の作業は行われていませんでした。
調査官は重加算税(35%)を賦課。

会社の主張
実際の作業発注がなかったのは経理担当者のミスで、意図的な仮装ではない。過少申告加算税(10%)が妥当。

調査官の指摘
領収書・請求書を自社で作成しており、明らかに仮装行為。
重加算税の対象。

結論:調査官の指摘が正しい。

「仮装・隠ぺい」とは、虚偽の証拠書類を用いて課税を免れようとする行為
故意があったと認められれば、経理担当者の単独行為でも重加算税の対象(国税通則法第68条)。

実務ポイント

  • 「請求書・領収書の偽造」「売上除外」は典型的な仮装。
  • 一方、「経理処理ミス」「解釈の相違」は過少申告加算税(10%)で済む。
  • 争点は「意図的だったか」よりも、客観的証拠から見て隠蔽性があるかどうか

② 延滞税の起算日 ― 「納期限」からではないケース

事例
A社は令和6年度決算で過少申告。令和7年9月に修正申告を提出し納付。
延滞税の起算日は「法定納期限(令和6年5月31日)」と認識していましたが、
調査官から「修正申告書提出日の翌日から起算」と指摘。

調査官の見解
延滞税は原則として法定納期限の翌日から計算されるが、
重加算税・更正処分に伴う追徴分は、処分通知書の翌日から起算する。

会社の主張
納期限起算だと誤って認識しており、延滞税の金額にずれが生じた。

結論:調査官の見解が正しい。

延滞税の起算日は、追徴の原因(修正・更正・決定)によって異なる(国税通則法第60条)。
調査対応時は、まず「どの課税処分に該当するか」を確認すること。

実務ポイント

  • 延滞税は「法定納期限」起算が原則。
  • ただし「更正通知・修正申告」に伴うものは通知日基準で変動する。
  • 税額が大きい場合、1日単位で金額が変わるため要確認。

③ 修正申告 vs 更正 ― “自主修正”のタイミングが重要

事例
調査中、A社は「修正申告をすれば加算税が軽くなる」と判断し、調査官立会いのもとで申告書を提出。
しかし、後日、重加算税が課された。

会社の主張
自主的に修正申告を行ったのだから、重加算税ではなく過少申告加算税にすべき。

調査官の指摘
調査で事実関係が明らかになった後の修正は「自主的」とは言えない。
重加算税の対象。

結論:調査官の指摘が正しい。

修正申告は、調査指摘前に自主的に行う場合のみ加算税軽減の対象。
調査官の質問後や資料提示後の修正は「更正処分回避」とみなされ、軽減の対象外。

実務ポイント

  • 「修正申告書提出日」が調査指摘前か後かが重要。
  • 申告直前に「自主的に出した」と主張しても、調査記録で時系列が確認される。
  • 「早めの自主修正」は信頼回復にもつながる。

🧾 まとめ ― 調査対応で問われる「姿勢」と「証拠」

論点認められるケース否認・課税強化ケース
重加算税解釈の違い・誤り仮装・隠ぺい・虚偽証憑
延滞税起算日法定納期限基準(通常)通知日・修正日基準(特例)
修正申告軽減指摘前の自主修正調査後の提出・事実確認後

💬 税理士の視点からの教訓

  • 「調査官と対立する」のではなく、論点を整理して誠実に説明する姿勢が重要。
  • 修正申告を行う場合は、「自主的な修正」であることを時系列で証明できるように記録を残す。
  • 延滞税・加算税は単なる“ペナルティ”ではなく、「税務リスク管理のバロメーター」。
  • 経理部門・顧問税理士は、“税務調査前の初動対応”で9割が決まる

📚出典
東京税理士協同組合 教育情報事業配布資料
「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」より


🏁 シリーズを終えて ― 税務調査の本質は「整合性」

全8回を通じて浮かび上がったのは、税務調査で問われるのは「形式」ではなく「整合性」ということ。
帳簿・契約書・議事録・支払実態が一致していれば、たとえグレーゾーンでも説明可能です。
逆に、整合性が崩れていれば、どんな理屈も通りません。

税務とは「論理と証拠の整合」。
そして、誠実な経理こそ最大の防衛策です。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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