暗号資産取引に分離課税が導入されることで、税負担の予見可能性は高まります。一方で、すべての暗号資産が分離課税の対象になるわけではありません。
その結果、同じ年に行った暗号資産取引であっても、「分離課税となる所得」と「従来どおり雑所得となる所得」が混在するケースが想定されます。
このような場合、申告実務ではどのように整理すればよいのかを確認しておくことが重要です。
所得区分ごとに「別々に」計算するのが原則
分離課税と雑所得が混在する場合、まず押さえておくべき原則は、所得区分ごとに計算・申告するという点です。
分離課税の対象となる暗号資産取引から生じた所得は、給与所得や事業所得などとは切り離して計算され、税率20%(所得税15%・住民税5%)が適用されます。
一方、分離課税の対象外となる暗号資産取引から生じた所得は、引き続き雑所得として、他の所得と合算した上で総合課税が適用されます。
損益通算は「区分をまたいでできない」
分離課税と雑所得が混在する場合、損益通算の可否が重要なポイントになります。
分離課税の対象となる暗号資産取引で損失が生じたとしても、その損失を雑所得や給与所得などと通算することはできません。
同様に、雑所得として計算される暗号資産取引の損失を、分離課税の暗号資産所得と相殺することもできません。
それぞれの所得区分は独立して扱われるため、「利益が出ている取引」と「損失が出ている取引」が混在していても、区分を誤ると税額計算を誤ることになります。
繰越控除は分離課税の中で完結する
分離課税の対象となる暗号資産取引については、3年間の損失繰越控除制度が創設される予定です。
ただし、この繰越控除も、あくまで分離課税の暗号資産所得の範囲内でのみ利用できます。
前年以前に生じた分離課税対象の暗号資産取引の損失を、当年の分離課税対象の暗号資産所得から控除することはできますが、雑所得や他の所得から控除することはできません。
逆に、雑所得として処理された暗号資産取引の損失は、分離課税の暗号資産所得には影響を与えません。
実務上よくある混在パターン
実務では、次のような混在パターンが想定されます。
- 国内の登録業者を通じた暗号資産取引(分離課税)
- 海外取引所や個人間取引による暗号資産取引(雑所得)
- 暗号資産ETFの取引(分離課税)
- 新規発行トークンや規制対象外トークンの売買(雑所得)
このような場合、取引ごとに「どの業者を通じたか」「どの暗号資産か」「どの制度の対象か」を整理し、帳簿や取引履歴を明確に区分しておくことが不可欠になります。
申告漏れが起こりやすいポイント
分離課税と雑所得が混在すると、申告漏れや計算ミスが起こりやすくなります。
特に注意が必要なのは、
- 分離課税の利益だけを申告し、雑所得部分を失念するケース
- 雑所得の損失を分離課税所得と相殺してしまうケース
- 繰越控除の対象範囲を誤解するケース
です。
税務調査では、取引の全体像を把握した上で、所得区分の判定が適切かどうかが確認されることになります。
結論
暗号資産取引に分離課税が導入された後は、「暗号資産=同じ税制」という考え方は通用しなくなります。
同じ年に行った取引であっても、分離課税と雑所得が混在することを前提に、所得区分ごとに丁寧に整理し、申告することが求められます。
今後は、価格変動だけでなく、「どの制度の対象となる取引か」を意識した管理と記録が、適切な申告の前提条件になるといえるでしょう。
参考
・税のしるべ「暗号資産取引に分離課税を導入へ、繰越控除制度も創設」(2026年1月12日)
・令和8年度税制改正大綱
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
