出向起業がもたらす「人材流動化」と「副業解禁」の相乗効果

副業
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■企業に“閉じないキャリア”が広がる時代に

「出向起業」という言葉を聞くと、まだ特別な人だけの話と思うかもしれません。
しかし、これは単なる新制度ではなく、日本企業の人材観を大きく変える兆しでもあります。

従来の日本型雇用は、「一社に長く勤めて、社内でキャリアを築く」モデルが中心でした。
しかし少子高齢化・技術革新・終身雇用の限界などが重なり、
いま企業は“社員を囲い込む”のではなく、“外に出して育てる”方向に舵を切りつつあります。

その象徴が「出向起業」なのです。


■出向起業は“人材流動化”の実験場

出向起業の特徴は、社員が会社を辞めずに外で事業を立ち上げること。
つまり、社内にいながら社外の世界で修羅場を経験できる仕組みです。

これにより、

  • 社員:起業家としての思考力・意思決定力を身につける
  • 企業:リスクを抑えつつ新規事業の種を生み出せる
    という双方にとっての「学びの循環」が生まれます。

そして結果的に、
「人材が一方向に固定されず、流動的に活躍する社会」への転換を後押しします。

たとえば、出向起業を経て企業に戻る人がいれば、
他社や自治体・スタートアップに転じる人も出てくる。
“社外経験がキャリア資産になる”という意識が定着しつつあるのです。


■副業・兼業との親和性も高い

実は「出向起業」は、副業・兼業の流れとも密接につながっています。
政府は2020年以降、働き方改革の一環として副業・兼業を推進しており、
経産省や厚労省のガイドラインでも「越境学習」「社外実践」が評価されるようになりました。

出向起業は、こうした副業解禁の延長線上にあります。
副業が“個人ベースの活動”だとすれば、
出向起業は“会社を巻き込んだ越境活動”です。

社員が「副業で小さく試す」から
「出向起業で本格的に挑戦する」へ──
段階的なキャリア形成の道筋が見えてきました。


■企業も“人が出入りする前提”に変わり始めた

以前なら、優秀な人材が「出向して起業したい」と言えば、
「裏切り者だ」と見なされることもありました。
しかし今では、トヨタや資生堂、清水建設など、
自社から起業する社員を応援する企業が増えています。

彼らは「戻ってくるかもしれない」「社外で得た知見が社内に還元される」
という前提で人事制度を見直しているのです。

この変化の背景には、

  • DX(デジタル変革)で既存の枠組みが通用しなくなった
  • 若手が社外で成長できる環境を求めている
    という現実があります。

出向起業は、企業文化を“閉じたピラミッド”から“開いたネットワーク”へ変える起点にもなっています。


■“越境”がキャリア形成のキーワードに

経済産業省の調査では、40代以上のビジネスパーソンの約7割が
「自社以外の経験を積む機会が欲しい」と回答しています。
しかし実際にそれを実現できている人はごくわずかです。

出向起業は、まさにこの「越境経験」を制度として可能にします。
社外で資金調達・チームビルディング・マーケティングなど、
起業家としての実務を経験することは、何よりも貴重な学びです。

また、こうした経験を積んだ人材が再び大企業に戻れば、
社内の新規事業やオープンイノベーションを牽引する存在になります。
“越境する人材”が企業の競争力を高めるという好循環が生まれます。


■税理士・FPの視点:副業・出向起業に共通する課題

出向起業や副業が広がると、次のような実務的課題も増えます。

  • 所得区分(給与所得・事業所得・雑所得)の整理
  • 源泉徴収・社会保険・住民税の取り扱い
  • 出向先での報酬契約・株式保有の税務処理
  • 法人設立・経費処理・青色申告の可否 など

つまり、“越境”には必ず税務・法務の境界問題が伴うのです。
出向起業が広がるほど、企業内外の税務コンプライアンス対応も求められるでしょう。

私はこの流れを「副業解禁2.0」と呼びたいと思います。
“副業”が「個人の挑戦」だった時代から、
“出向起業”という「組織を巻き込む挑戦」へ。
この変化を支えるのが、実は税理士・FPなどの専門職です。


■まとめ:「社外に出ること」がキャリアの一部になる社会へ

出向起業と副業解禁の流れは、
「企業に縛られず、社会全体で学び・稼ぐ」時代を切り開いています。

人生100年時代、キャリアは1社完結ではなく、
“複数のフィールドを行き来しながら育てるもの”になる。
そう考えると、出向起業は単なる制度ではなく、
私たちの働き方の未来を映す鏡といえるでしょう。


出典:2025年9月19日 日本経済新聞 朝刊
「大企業辞めずに『出向起業』、埋もれる技術に光 支援の仕組みは手探り」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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