円相場はなぜ動かないのか 日米の金融政策が「逆方向」に動いても円高にならない理由

FP

円相場が1ドル=155円前後で膠着しています。市場では「米国は利下げ、日本は利上げ」とみる声が大勢で、本来であれば円高方向に動きやすい局面です。しかし実際には、円は思うように上昇していません。
今回の記事では、為替が動きにくい背景として、日米の政策金利だけではなく「実質金利差」や市場の見通し、財政政策やインフレの持続性といった要素が複雑に絡み合っている点を整理します。

日米の政策が「逆方向」に動く異例の局面

市場では、今週から来週にかけて米国は利下げ、日本は利上げという真逆の方向へ政策を動かすとの見方が強まっています。

  • FRB(米連邦準備理事会):0.25%の利下げを見込む声が9割
  • 日銀:12月会合の利上げ確率は9割近く

1998年の日銀法施行後、同月に両国が逆方向の政策を決定するのは極めて異例です。

理論上は金利差縮小が円高を促しますが、実際の相場は大きく動いていません。

鍵を握る「実質金利差」

為替は名目の金利差だけでは動かず、物価上昇率を加味した 実質金利差 が重要とされます。

2022年以降、円が急落した背景には、FRBが急速に利上げする一方で日銀がYCCで長期金利を抑え込んでいたため、日米の実質金利差が急拡大したことがありました。

現在は以下のように状況が変化しています。

  • 日銀は2024年3月にマイナス金利とYCCを解除
  • 長期金利が上昇し、実質金利差は最大4%→直近では2%台まで縮小

しかし、それでも円高が進みにくいのは、ここからの実質金利差縮小が限定的と見られているためです。

市場が見ている「今後の金利パス」

日銀が利上げを決めても、政策金利は0.75%にとどまる見込みで、市場の見通しも慎重です。

  • 市場の織り込み:2026年までに利上げは1回、政策金利は1%程度
  • FRB:利下げはするが、景気・物価次第で追加利下げには慎重との見方

さらに、米国の10年債利回りは再び4.1%台へ上昇し、米長期金利が下がりにくいとの警戒感もあります。

つまり、金利差が急速に縮む構図が見えないため、円買いが強まりにくい状況です。

インフレの構造が変化している

もう一つのポイントが、日本のインフレと財政政策です。

  • 日本:高市政権の積極財政でインフレが長引くとの見方
  • 米国:トランプ政権が関税引き下げを検討し、物価安定方向の政策も視野

この違いが、今後の日米実質金利差の縮小をさらに困難にしていると考えられます。

市場が警戒する日銀の「サプライズ」

今回の日銀会合では、単なる利上げだけでなく「メッセージの出し方」が円相場を動かす可能性があります。

例えば、

  • 中立金利(1.0〜2.5%)の下限である1.0%を天井とみる市場の認識を変える発言
  • 今後の追加利上げの可能性をより強く示唆するコミュニケーション

こうしたメッセージがあれば、市場の金利観を修正し、円買いにつながる可能性があります。

為替相場の分岐点:専門家の見通しは二極化

市場関係者の2026年末のドル円見通しは割れており、円安・円高の両シナリオが並立しています。

  1. 円安シナリオ(1ドル=158円)
    • FRBは利下げペースを抑制
    • 高市政権下では日銀が積極的な利上げに踏み切れず、「年1回」程度の利上げにとどまる
  2. 円高シナリオ(1ドル=140円)
    • 円安によるインフレが政権への逆風に
    • 日銀への利上げ圧力が高まり、追加利上げ観測が強まる
    • 円買い戻しが進む

同じデータを見ていても、政策の持続性・政権の許容度・財政運営といった判断軸によって、予測が大きく分かれています。

結論

現在の円相場が動かない背景には、単なる日米金利差以上の複合的な要因があります。

  • 実質金利差が縮まりにくいとの市場評価
  • 日米の金利パスが限定的にしか変わらないとの見方
  • インフレの構造の違い
  • 日銀の政策スタンスへの不透明感

円相場が膠着を脱するためには、日銀またはFRBの政策に「市場の前提を覆すほどの変化」が必要になるとみられます。
12月の日銀会合は、その分岐点となり得るタイミングですが、現時点では市場の警戒感と期待が交錯しています。

今後は金融政策だけでなく、国内外のインフレ動向、財政政策、米国の統計発表の遅延など、さまざまな要素が一段と複雑に相場へ影響を及ぼす局面が続きそうです。

参考

・日本経済新聞「円相場の膠着続くか」(2025年12月8日)
・FRBおよび日銀の政策動向に関する各種統計・市場データ


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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