2025年、自民党の新総裁に高市早苗さんが就任しました。
3度目の挑戦でようやく党のトップに立ち、しかも公明党が連立を離脱した状況での船出。まさに荒波の中のスタートです。
しかし、就任後の記者会見や政策方針を見ていて、ひとつ気になる点があります。
それは――「円安」をどう考えているのか、ということです。
アベノミクスの継承と時代の変化
高市さんは安倍晋三元首相を支えた政治家の一人。経済政策の軸には「財政拡張と金融緩和」、いわゆるアベノミクス路線が見えます。
確かに、金融緩和が円安を後押しし、株価や企業業績を押し上げてきました。
けれど、2020年代半ばのいま、経済の前提条件はすっかり変わっています。
2021年初めに1ドル=104円前後だった円は、米国の急激な利上げをきっかけに160円台まで急落。
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー・穀物価格の高騰も加わり、輸入物価が高止まりしています。
食料品の輸入額は2020年の約8.9兆円から、2024年には13.4兆円と約1.5倍。
この差額分の多くが私たちの家計にのしかかりました。スーパーでの値上げ、外食の高騰。原因の一つが「円安」なのです。
金融政策は誰のためにあるのか
高市さんは「金融政策の責任は政府にある」と語っています。
しかし、2023年に黒田総裁からバトンを受けた植田日銀総裁は、むしろ「円安との闘い」に苦慮しているのが現実です。
黒田時代の「異次元緩和」はデフレを止めた一方で、国債市場のゆがみや金利抑制の副作用を残しました。
いま、10年物国債の利回りは一時1.7%。円安が続けば、輸入インフレ→国債売り→金利上昇→財政圧迫という悪循環に陥るリスクがあります。
政府が掲げる「賢い投資」も、人手不足がボトルネックになって現実には進みにくい。
もし財政拡張が「投資」ではなく「借金の積み増し」だけに終われば、国債の格下げが企業や銀行に波及する恐れすらあります。
「安い日本」をどう止めるか
円安は企業に恩恵をもたらす一方で、「安い日本」という新たな課題を生みました。
外国人観光客のオーバーツーリズム、外国資本によるマンション買い占め、企業買収――いずれも円安が背景にあります。
保守派が危惧する「外国に日本が買われる」という現象を食い止めるには、むしろ適度な円高への転換が必要です。
企業の採算レートは1ドル=127円程度。仮に15%の関税を上乗せしても146円前後。現在の水準にはまだ余裕があります。
政府と日銀の「すれ違い」を防げ
政府と日銀が同じ方向を向いて経済運営を進めることは重要です。
しかし、政治が短期的な株価や為替水準にとらわれて、金融政策に過度に干渉するのは危険です。
米国での「トランプ対FRB」構図を日本で再現してはなりません。
高市政権が掲げる「強い日本経済」を実現するには、まず円の安定こそが土台です。
円安を放置したままの景気刺激策は、結果的に家計と中小企業を疲弊させるだけ。
「誰のための経済政策か」という原点に立ち返ることが求められています。
まとめ:これからの「為替中庸主義」へ
円高でも円安でもない「中庸の為替」。
これを維持できるかどうかが、日本経済の持続力を左右します。
短期的な景気浮揚よりも、長期的な信頼の回復を。
高市政権には、アベノミクスを超える“令和型の経済運営”を期待したいと思います。
📘出典:2025年10月13日 日本経済新聞朝刊「高市さんは円安がいいの?」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
