公益信託をめぐる制度は、令和8年4月からの新制度開始と税制整備により、実務的な選択肢として明確な位置付けを得ました。本シリーズでは、制度の基本から税務、実務、高齢期・相続との関係、向き不向き、他制度との選び分けまでを順に整理してきました。
保存版として本稿では、これまでの内容を踏まえ、
・どの制度を選ぶべきかを考える「判断フロー」
・各制度の役割を俯瞰する「制度マップ」
という二つの視点から、全体像を整理します。制度選択で迷ったときの確認用として位置付けることを目的とします。
判断フロー① 目的は「家族」か「公益」か
最初の分岐点は、資産を誰のために使いたいのかという点です。
家族の生活や承継を中心に考えるのであれば、公益信託は第一選択とはなりません。
・家族のための資産管理・承継 → 家族信託
・死後の財産配分を決めたい → 遺言
・社会や特定分野への還元を考えたい → 次の判断へ
公益信託は、明確に「公益」を目的とする場合に検討すべき制度です。
判断フロー② 生前から関与したいか
次の判断軸は、公益目的を「生前から実現したいかどうか」です。
・死後に意思が実現されれば足りる → 遺言による寄附
・生前から資産の使われ方を見届けたい → 公益信託または公益法人
公益信託は、生前に設計・運用を開始できる点に大きな特徴があります。
判断フロー③ 組織を作りたいか
公益活動の規模や継続性も重要な判断要素です。
・長期的・組織的に公益事業を行いたい
・人や事業を拡大していきたい
→ 公益法人
・特定の目的・期間に限定した公益活動を行いたい
・組織運営の負担は抑えたい
→ 公益信託
「事業主体を作る」のか、「資産の使い道を設計する」のかが分かれ目となります。
判断フロー④ 税制は主目的か
公益信託を含む公益制度には税制上の優遇がありますが、それは公益目的を前提とした結果です。
・税制優遇が主目的 → 制度選択として不適切
・公益目的が主で、税制は補助的要素 → 公益信託の検討余地あり
税制だけを理由に制度を選ぶと、承認が得られない、あるいは後に問題が生じる可能性があります。
制度マップ① 各制度の役割整理
ここで、制度ごとの役割を整理します。
・遺言
死後の財産配分を指定する制度。簡便だが、生前の関与はできない。
・家族信託
家族のための財産管理・承継制度。公益目的には不向き。
・公益信託
公益目的のために資産の使い道を設計する制度。生前設計が可能で柔軟。
・公益法人
公益事業を行う組織を作る制度。継続性・拡張性が高いが運営負担も大きい。
これらは優劣関係ではなく、目的別の制度です。
制度マップ② 高齢期・相続との関係
高齢期には、資産を「使う」「残す」「還元する」という三つの方向性が同時に存在します。
・生活資金の確保 → 手元資金・家族信託
・家族への承継 → 遺言・家族信託
・社会への還元 → 公益信託・公益法人
公益信託は、この中で「社会への還元」を担う位置付けにあります。
制度マップ③ 組み合わせという実務発想
実務上は、単一制度で完結させる必要はありません。
例えば、
・生活資金と家族承継は家族信託
・公益還元部分は公益信託
・最終調整は遺言
といった組み合わせも現実的です。
重要なのは、各制度の役割を混同しないことです。
結論
公益信託は、明確な公益目的を、生前から実現したい人に向いた制度です。一方で、家族のための資産管理や、単純な相続対策を目的とする場合には、他の制度の方が適していることもあります。
保存版として示した判断フローと制度マップは、「どの制度が正解か」を決めるものではありません。
自分の目的・価値観・ライフステージに照らして、どの制度をどう使うかを考えるための整理ツールです。
公益信託は、その中の一つの有力な選択肢として、位置付けて検討することが重要です。
参考
・税のしるべ 2026年1月19日
公益信託に財産を拠出した場合における譲渡所得税等の非課税の特例のあらまし
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

