ここまでのシリーズでは、
- 第1回:2割負担導入とその内容
- 第2回:医療費膨張と現役世代の重荷
- 第3回:さらなる改革シナリオ
- 第4回:生活者への影響と備え
を取り上げてきました。
最終回となる第5回では、「改革のゴール像」を考えていきます。少子高齢化が進む日本で、どのようにすれば「公平な負担」と「安心して受けられる医療」を両立できるのか。社会全体の視点と個人の視点を交えてまとめます。
なぜ「公平な負担」が必要なのか
医療保険は「みんなで支え合う仕組み」です。現役世代が保険料を拠出し、税金も投入され、その結果として高齢者も安心して医療を受けられる ― このバランスの上に成り立っています。
しかし、現状では次のようなゆがみが生じています。
- 75歳以上の医療費の9割を「税金」と「現役世代」が負担
- 高齢者の自己負担は原則1割(大多数が該当)
- 現役世代の負担は給与天引きで年々増加
この不均衡が続けば、制度自体への信頼が揺らぎ、将来的に「国民皆保険制度」を維持できなくなるリスクもあります。
改革の方向性 ― 軽度は自己負担、重度は手厚く
これまでの議論から見えてくる改革の方向性は明快です。
- 軽度の医療や日常的な受診
→ 自己負担を増やし、市販薬やジェネリック薬で対応する。 - 重度の病気や高額医療
→ 公的保険でしっかり守る。
つまり、「本当に必要な場面にこそ社会保険を集中させる」という考え方です。
この流れは、健保連の提言(年齢区分の見直し、将来的な3割負担、OTC類似薬の保険外し)とも一致しています。
個人ができる準備
制度改革は国の方針に左右されますが、個人としてできる準備もあります。
① 医療費の自己負担を見据えた家計設計
老後の生活費には「医療費の増加」も組み込んで考えることが大切です。年間数万円の変動があっても対応できるよう、家計に余裕を持たせましょう。
② 健康寿命を延ばす取り組み
医療費の最大の節約は「病気にならないこと」。食生活・運動・睡眠といった基本を大切にし、予防医療にも関心を持ちましょう。
③ セーフティネットを理解して活用
高額療養費制度や医療費控除など、負担を軽減する仕組みを知っておくことも重要です。制度は「使いこなす」意識が大切です。
社会に求められる意識改革
一方で、社会全体としては「高齢者は負担が少なくて当然」という固定観念からの脱却が求められます。
- 高齢者も支払い能力に応じて負担する
- 現役世代も将来の自分のために制度を支える
- 国は「公平性」と「持続性」を両立させる仕組みを提示する
この三者の合意があって初めて、国民皆保険制度は未来へと続いていきます。
まとめ
- 医療制度改革のゴールは「公平な負担」と「安心して受けられる医療」の両立。
- 軽度医療は自己負担、重度医療は手厚く守るという方向が強まっている。
- 個人は「家計設計」「健康寿命の延伸」「制度の活用」で備えることができる。
- 世代間の公平性を確保する意識が、制度を未来に残すための第一歩。
📖 参考
- 日本経済新聞「医療保険の負担の改革をさらに進めよ」(2025年9月30日)
- 厚生労働省「後期高齢者医療制度関連資料」
おわりに
高齢化の進展は避けられない現実です。しかし「年を重ねても安心して医療を受けられる社会」を守ることは、今の高齢者だけでなく、将来の私たち自身のためでもあります。
制度改革を「負担増の話」とだけ受け止めるのではなく、「未来の安心をつなぐための投資」として前向きに理解する視点が、これからますます求められるでしょう。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
